子どもたちへの食育推進
エゾシカなど鳥獣の捕獲や山林作業者のハンター護衛を請け負うシンカン(本社・当別)は、捕まえた鹿を飼い直し、解体する1次施設を当別町内で計画している。最近はジビエブームなどの影響から、より鮮度の良い食材を求める傾向が高い。同社は環境省の「認定鳥獣捕獲等事業者制度」で道内第1号を受けるなど、鳥獣捕獲で高い技術やノウハウを持ち、今後は生体捕獲から1次飼育・解体までの流れを作ることで地域活性化を一層促す考えだ。
社長の向井正剛さんは当別生まれの50歳。森林関係の企業や団体で働いた後、2012年に独立。社名は森林と環境の2語から取って「株式会社シンカン」とした。
業務は苗木を植栽したり間伐したりといった林業がメイン。11月以降は仕事が無くなってしまうため年間を通した安定経営を目指し、15年に道の認可を受けて鳥獣捕獲事業を始めた。
北海道猟友会当別支部長としての顔も持つ。ハンターとしての知識や技能が高く、自治体から依頼を受けて鳥獣を狩猟するだけでなく、土木や電気工事などで山林に入る技術者を護衛することも度々ある。建設業ともなじみが深い。
最近は野生動物が人里に下りてくる事案が各地で目立ち、安全面から銃を使うことなく生きたまま捕らえるケースが増加。そんな中、16年から林野庁の補助事業などを活用し、「囲いわな」と呼ばれる仕掛けを設け、餌でエゾシカを誘い込みながら入り口の扉を閉める生け捕りを研究する。昨冬は砕石業を手掛けるハラダ産業(本社・札幌)の札幌事業所で、囲いわなによる捕獲事業を実施し、2年目の今冬も計画している。
近年、捕獲したエゾシカを廃棄処分することなく、食肉やペットフード、セーム皮などに有効活用する動きが広がっている。中でも食肉はジビエ料理のブームもあって、より鮮度の高いものが求められる傾向にある。
注目されているのが、生体捕獲したエゾシカを一時的に飼い直す〝養鹿(ようろく)〟という事業。道内では北泉開発(本社・釧路市)などの取り組みが有名だ。
シンカンでは養鹿施設に加えて、解体の1次処理場を当別町内で設けたいと考えている。地元の猟友会メンバーや道総研の環境科学研究センターに協力してもらい、20年度の開設を目指す。エゾシカ肉の製品化でパイオニアの南富フーズ(本社・南富良野)のアドバイスを受けている。
道内のエゾシカ食肉処理施設は、おおむね道東に集中し、札幌周辺や空知は少ない。そうした空白地帯の受け入れ先を当別町で設け、地域の活性化を図ろうというのがシンカンの狙いだ。
地域の子どもたちに向け、食育を進めたい考えもある。「養鹿と1次処理の両施設を見学してもらうことで、命の勉強につながれば」と向井さんは話す。
「林業はチェーンソーで木を切るだけでなく、1本ずつ苗木を植えたり下刈りをしたりと地味な仕事が多く、なり手が少ない。エゾシカの事業を通し、地域の子どもたちが少しでも山仕事に興味を持ってもらえれば」と話している。
(北海道建設新聞2019年12月26日付2面より)