深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 北海道M&A協会 荒木俊和代表理事

2020年01月14日 12時00分

荒木俊和代表理事

時期逃さず売却手助け

 経営者の高齢化と後継者不足が本道でも深刻さを増している。事業承継の一手法としてM&A(合併・買収)があらためて注目される中、弁護士や税理士などで構成する一般社団法人北海道M&A協会(本部・札幌)が昨秋発足し、動き始めた。代表理事を務める弁護士、荒木俊和氏(37)に協会の事業方針やM&Aを巡る道内の現状を聞いた。

 ―協会発足の経緯は。

 もともと道内の企業経営者をサポートしている弁護士や税理士、行政書士など専門家の人的ネットワークがあり、案件に応じて連携して仕事をする実態があった。昨今は高齢化などから企業の承継問題がクローズアップされるものの、道内はM&Aに関する理解が進んでいない。複数の専門家が情報を共有・連携してM&Aを根付かせることが必要と考えた。

 ―M&A仲介というと金融機関の印象だが、弁護士は関係するのか。

 M&Aは法律に関わる要素が非常に多く、特に弁護士が機能する分野の一つだ。弁護士はもめ事を解決するだけのように思われがちだが、そんなことはない。私たちとしても経営戦略のパートナーとしてもっと認識されるよう努力する必要を感じている。

 ―協会の活動として具体的には何を。

 一つは仲介業。売却・買収のニーズがある企業を引き合わせ、M&Aを成立させる。二つ目として、専門家向けの情報プラットホームの機能を持ちたい。近年はM&A情報のマッチングサイトが増えたが、中身は不動産仲介でいう「出回り物件」のような、魅力に乏しい安値案件も多い。その一方で、中小向けながら数十億円単位の売買になるハイレベルな仲介市場もある。私たちはこの中間に相当するような、価格と内容のバランスが取れた案件を多く扱いたい。

 ―道内のM&A市場はどんな状況か。

 買収希望は多いが、それに比べて売りに出ている企業や事業部門が少ない。赤字の企業・事業を売りたい経営者は多いだろうが、基本的にM&A市場では、特別な技術や特色がない限り赤字続きや債務超過の企業は案件とは見なされない。この半面、ある程度黒字が出ている事業なら経営者は売ろうとしない。結果、売買が成立するような売り案件が不足している。

 ―買い手がつく事業を売りに出す経営者はいないということか。

 先日ある経営者と話していたら、事業は家業であって、数字では判断できないといわれた。協会の活動として三つ目となるが、M&Aという正当な取引を経営者に啓発することが今は最も重要だと考える。

 事業には、業績トレンドや景気情勢などから、売却に適したタイミングがある。時機を逃せば成立するM&Aも成立しなくなり、その結果企業が破綻して雇用が失われることにもなりかねない。

 ―行政や経済団体によるM&A促進策も増えている。世間の関心は強いのでは。

 協会の活動スタートが昨秋各メディアで報じられてから、売買希望の企業、仲介業者、公的機関から多くの問い合わせを頂き、今も続いている。多くの方がM&Aの必要性を感じ始めているようだ。北海道の活力向上のためにもM&A発展は不可欠。協会として役割を果たしたい。

(聞き手・吉村 慎司)

 荒木俊和(あらき・としかず)1982年三重県伊賀市出身。2008年東大法科大学院修了、09年弁護士登録。森・浜田松本法律事務所(東京)勤務を経て12年に札幌に移住し、14年アンサーズ法律事務所設立。

(北海道建設新聞2020年1月10日付2面より)


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