恒常的な商取引へ
ユジノサハリンスク市郊外の商業施設シティーモールに並ぶ、メロン、スイカ、カボチャ、米などの道北の生鮮野菜や果実。それを目当てに押し寄せる大勢のロシア人客。これは、今やサハリンでお馴染みの光景だ。稚内市、旭川市をはじめとする道北9市によるこの取り組みも、ことしで7年目となる。今後、一時の催事から継続した商取引への転換には何が必要か、少し掘り下げてみたい。
イベント頼みを脱却して、サハリンで恒常的なビジネスを展開するには、クリアすべきいくつかの課題がある。
最初に挙げたいのが輸送ルートの問題だ。これら物産展用の貨物が、稚内―コルサコフ間の貨物船で運ばれていることは、あまり知られていない。現在、北海道―サハリン間の貨物輸送は小樽港が中心といえるが、その定時性については課題もある。特に食品輸送は鮮度が重要で、定時輸送は欠かせない。通年で安定的に輸送可能なルートがあるのがベストである。
2点目は現地パートナーの問題。前提として、サハリン市場を目指す企業、生産者などそれぞれに当事者意識がどれだけあるかがポイントである。特に、ロシア人と直接会うのを避けたいといった消極的な意味で商社などに仲介をお願いするパターンは、うまくいかないことが多いように思う。
道内産品は道外大手製と違って大ロットの商品がそれほど見込めず、採算が合わない例も多い。その点、サハリン側のパートナーと直接的な結び付きをいとわない企業は、信頼関係を基に、少量でも安定した取引を実現させている傾向がある。
このほか、ビジネスの形態も課題だ。サハリン側のパートナーと、互いの希望条件で取引を成立させるのは、最初はなかなか難しいように思う。まずは現地での買い付け、相互訪問など、多少のリスクは覚悟で信頼関係を築くことを優先し、後の成果に結び付けるのを目指すのも手段の一つである。
さらに一点、極東ロシアの物流構造が挙げられる。輸出入の拠点は大陸のウラジオストクであり、サハリンは、この商圏に組み込まれている。流通する多くの国外商品がウラジオストク経由で入ってくることが影響して、自社で輸出入を行わない例も多々ある。サハリンの輸出入の拠点は空路でユジノサハリンスク空港、海路でコルサコフ港。他でも不可能ではないが、税関手続きや保税などを考えると基本的にこの2カ所に限定される。
以上、思いつくまま課題を列挙してみたが、サハリンという特殊な地域での商取引には、まだまだ語り尽くせない深みがある。北海道はその地域特性もさまざまで、成功事例も一概に参考とはなりにくい。ビジネスを成立させるのが容易とは決していえない環境というのが実感だが、それはチャンスの裏返しでもある。
(北海道建設新聞2020年1月14日付1面より)
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