五輪で活用しアピール
雪と氷を保管し、冷気や触けてできた冷水を農作物の貯蔵や建物の冷房に使う「雪氷熱利用」。冬の天然資源を有効に使うことで環境に配慮できるほか、農作物の付加価値向上などに一役買う。雪氷エネルギーの普及活動に取り組むNPO法人雪氷環境プロジェクトの小嶋英生理事長に導入効果や東京五輪での利用法を聞いた。
―雪氷熱の利用法は。
建物の冷房、農作物の貯蔵、農産物の生産時期調整の3つだ。雪氷を活用している施設は全国に153あり、うち道内が70と都道府県別で最も多い。雪の供給地と需要地が同じ〝地産地消〟が基本だ。2500㌧のもみを雪冷熱で低温貯蔵する「スノークールライスファクトリー」(沼田町)が完成した1996年ごろから注目されるようになった。
―どのような導入効果が期待できるか。
札幌市内の堆積場に運ばれる雪は年間1500万㌧で、200億円の除排雪費がかかっている。雪をエネルギーとして使えば、除排雪費は節約できる。雪1㌧の冷房利用で石油換算で10㍑、二酸化炭素で30㌔の抑制効果がある。
農産品には付加価値が生まれる。例えば、沼田町の雪室で2カ月寝かせた豆を用いた「雪町コーヒー」は北海道土産としてアジアの観光客に人気だ。雪で寝かせることで味がまろやかになるし、受け取る側が面白がってくれる。北海道らしさをアピールできる。
また、工場で雪冷房を導入すると電気代があまりかからない。この点が伝われば企業誘致にも役立つのではないか。
―利用事例は。
地方では農作物の貯蔵などに、都市部では雪冷房に使われることが多い。札幌市内の公共施設だと円山動物園のアジアゾーンやモエレ沼公園ガラスのピラミッド、手稲の山口斎場、民間では五島冷熱、アミノアップの本社、清水建設の社員寮などで雪冷房を採用している。
今後提案したいのが、高齢者福祉施設に向けた雪冷房の採用だ。雪にはアンモニアなどの臭い、ちりやほこりを吸収する力があるほか、自然冷熱は長時間あたっても肘や膝が痛くならない効果があり、導入に適していると考える。
―普及は進んでいるのか。
自治体や農協を中心に少しずつ進んでいるが、お金がかかるという思い込みが普及の壁となっている。国の補助金制度があるが、周知が行き届いていない。理解してもらうためのPRが必要だ。
―団体の活動内容は。
30人が参加している。技術指導や雪で寝かせた食材を食べる会などを通じて雪氷利用の普及促進を図っている。今後は雪冷房施設の見学会をもう少しやりたい。
―東京五輪で雪氷熱を使う構想があるが。
「北海道雪氷桜プロジェクト実行委員会」に参画している。沼田町の雪蔵で寝かせた桜を提供するほか、マラソンと競歩のコースに雪柱を並べる構想がある。簡易式雪冷房装置を救護テント内に置くことも可能だ。雪氷エネルギーを知ってもらういい機会で、関係機関に許可を得て動きたい。
―雪氷熱利用の将来像は。
全国目標は300施設。現在は半分だが、道内各市町村で1施設ずつ増えれば達成可能だ。雪氷の利用が進めば、北海道は環境に優しい地方としてリードできるのではないか。
(聞き手・富樫 茜)
小嶋英生(こじま えいせい)室蘭市出身。法政大を卒業後、衆院議員の秘書などを経験した。2006年から同法人の理事長を務める。
(北海道建設新聞2020年1月30日付2面より)