エネルギー使用量削減に効果
地域固有の熱源を活用することで光熱費と二酸化炭素排出量を削減し、地域のイメージ向上につながる温泉熱が注目を浴びている。環境省が2019年3月に「温泉熱有効活用に関するガイドライン」を示したことで取り組みが拡大。道内では定山渓万世閣ホテルミリオーネ[MAP↗]が、温泉熱を利用した省エネルギーシステムを導入し、削減効果を上げている。温泉熱有効活用の現状と課題を見る。
温泉熱は、地域で活用する事例はあるものの、入浴に使った後の温泉をそのまま捨てるなど、十分に生かしきれていない場合がある。
一方で温泉熱は温水の生成や発電、排湯熱による融雪などさまざまな用途に利用可能。化石燃料の使用量を減らせることで二酸化炭素の排出量や光熱費の削減につながったり、現地見学ツアーや視察などによる集客、地域活性化などが利用効果として期待されている。
環境省がガイドラインとともに示した温泉熱利用事例集では、自治体などが取り組む全国30の先進事例が紹介されている。富山市にある牛岳温泉植物工場[MAP↗]は温泉水を工場内のエゴマ栽培室用空調に利用。二酸化炭素排出削減率とエネルギーコスト削減率はともに20%だ。実施主体は富山市で、地域ブランドの構築や環境政策につながるといった導入目的がある。
1月30日に札幌市内で開かれた環境省主催の「温泉熱の有効活用促進セミナー」では、定山渓万世閣ホテルミリオーネの温泉熱を有効利用した省エネシステムの取り組み概要が紹介された。
定山渓の温泉の温度は80度以上。従来は温泉の温度を下げるために加水しつつ、水をボイラで加温して給湯に使用するなどしていた。田中寿総務課施設係長は「無駄なエネルギーを費やしていて、長年の改善課題となっていた」と明かした。
省エネシステムは16年に導入し、プレート式熱交換器を採用した。熱交換器を用いて給湯補給水の加温をしたり、暖房用熱源として熱を回収し、最終的に50度まで温度を下げた温泉を浴場へ供給し源泉掛け流しとしている。
併せて、パソコン上で設備の運転状況や流量、温度などを監視できるシステムを構築。状態を見える化することで、メンテナンス計画が円滑に実施できるようになった。
省エネシステム導入以前の11年のエネルギー使用量は、原油換算で年間2285㌔㍑。田中総務課施設係長は「導入した16年は1752㌔㍑まで削減することに成功した」と効果を説明した。
総合設備コンサルタント(本社・東京)エネルギーコンサルティング推進室の三毛正仁室長は、環境省と共同で施工会社などにヒアリングした結果から、温泉熱利用を考えるときは「十分な現場調査と検討が必要。温泉熱の利用方法に応じて常に温度・流量の一定量の供給が可能かどうかや、定期的なメンテナンスをどうするかを考えた方がいい」と指摘した。
(北海道建設新聞2020年2月4日付3面より)