一寸房がインターン受け入れ
「シベリアの首都」と呼ばれる160万人都市、ノボシビルスク市。1月31日、筆者は市内中心部の一角にあるノボシビルスク国立建築土木大学を訪ねた。学生数は約4000人。ことしでちょうど創立90周年を迎えた名門大だ。卒業生の大半が建設業界に進む。地元の国際空港ビルをはじめとする大型建築、また首都モスクワの超高層ビル群など、ロシア国内の多くのランドマーク建設に同大OBが関わっている。
面談したモロジン・ウラジーミル副学長から、本道企業の社名が飛び出した。「本学の学生をインターンとして、イッスンボウに送る準備を始めた」。札幌に本社を構える建築設計の一寸房だ。約2週間前に上山哲正社長が来校し、人材育成について副学長と意気投合したのだという。
同大は以前からヨーロッパとの交換留学などが盛んで、成績優秀者に外国を体験させる伝統があった。一方の一寸房は、職場の多様性を高めようと外国人材の本社採用を強化し始めたところ。むろん、将来の海外事業拡大も視野に入れている。
大学に日本語学習のカリキュラムはなかったが、副学長の主導で急きょ語学教師を採用。2月19日、インターン希望の学生15人が集まり、キャンパス内で最初の授業が開かれた。週1回のペースで基礎を学び、来年には学生数人が来道する見込みだ。
上山社長が初めてノボシを訪れたのは昨年11月。北海道経産局が現地で開いた高度人材採用イベントに参加するためだった。「集まった若いロシア人たちと話して、地域の教育レベルが想像以上に高いことが分かった」(上山社長)。いったん帰国して採用候補者を絞り込み、2次面談と適性試験のため1月中旬に再渡航。実施した試験の平均点は、日本よりも大幅に高かったという。その後2月に入って、最終的に2人に正社員の内定を出した。
建築土木大との接点ができたのはこの1月の滞在時だった。現地通訳を依頼したノボシ市付属の国際交流機関「シベリア北海道文化センター」から提案されて初めて訪問。その場でインターン受け入れを決めた。
IT分野で着実に交流
ノボシビルスク州との交流を本格化する本道企業は一寸房に限らない。地質調査のレアックス(本社・札幌)の成田昌幸社長は初夏をめどに、2度目のノボシ入りを計画している。
同社の看板商品は、独自開発カメラとVR(仮想現実)技術を組み合わせた地質調査システム「アースダイバー」だ。成田社長は昨年9月、シベリアのIT展示会を視察するために初渡航。このときに知り合った現地の地質学研究所の幹部がレアックスの調査システムに強い関心を持ち、以来、事業連携に向けて連絡を取り合ってきた。
シベリア広域では鉱業や建設業の存在感が強く、地質調査の需要は高い。次回渡航では研究所の協力も得ながら、パートナー探しや事業プランの構築に乗り出す。
業種別に見ると、本道との間でビジネスの動きが着実なのはIT分野だ。ノボシのIT業界はエンジニアの層が厚く、主に受託開発で外国企業とのやりとりにも慣れている。
札幌で流通業界向け情報システムなどを開発するイークラフトマンは昨年11月、同社製システムの一部として使うスマートフォンアプリの開発を現地の技術者に発注した。新山将督社長は「短い期間で納品され、品質も素晴らしかった。今後いろいろな協業が考えられる」と語る。
新山社長は2017年にノボシIT業界の高い評価を知り、同年の暮れに足を運んだ。その後は年に1、2度渡航して情報収集。昨年の初めには、ネット通話システムを開発するノボシ企業と日本での販売代理店契約を結んだ。札幌本社ではロシア語を使える社員を確保。次なる事業展開へと準備を進めている。
ほかにも人工知能(AI)開発の北大発ベンチャー、調和技研(本社・札幌)が昨秋初めてノボシを訪ね、地元の工科大学と共同研究に取り組むことで合意。かねてロシアに高機能手袋を輸出している青井商店(同・旭川)は17年以降、パートナー企業を通してノボシでの販売促進を続けている。
シベリアは東西冷戦時代、西側からの軍事攻撃を警戒するソ連政府が、優れた研究者やエンジニアをモスクワから集団疎開させた先だ。そうした背景から研究機関が多く、教育レベルは高い。
また、シベリア全域の人口は1700万人強で、日本に近い極東ロシア全域の2倍以上。ノボシ州はその中心地だ。何もない極寒の地という一般的なイメージに反して、企業や人材はバラエティーに富んでいる。その潜在力に気付いた本道経済人が、次々と現地入りしている。
(北海道建設新聞2020年3月5日付1面、同日付3面より。WEB掲載にあたり再構成しています)
e-kensinマップで見る「シベリアのビジネス発信地」