一製品より課題解決提供
国際ビジネスには多くの可能性と同時に困難もつきまとう。日ロ間もその例に漏れない。ここ数年、本道企業との協業に挑戦し続けているのが、ノボシビルスク市で設計会社「エンジニアリング・スフェラ」を経営するマキシム・コイナシュ社長(36)だ。これまでの取り組みと経験から感じている課題についてインタビューした。
―業務内容は。
ノボシ市内の商業施設や飲食店を中心に冷房や排水装置、電気システムの設計、施工、メンテナンスをやってきた。設立は2015年。社員は自分を含めて数人だが、有名ショッピングセンターなど大きな仕事も受注している。
―来道経験がある。
以前から日本に興味があり、17年に、市の付属機関「シベリア北海道文化センター」の日本語教室に通った。このときセンターに札幌のコンサル業者が短期滞在していて、日本製品を扱いたいと話したところ、北海道企業を何社か紹介された。翌年、日本の日本貿易振興機構(ジェトロ)などの事業で招かれて、1年で2度北海道を視察した。
―今までどんな本道企業と知り合ったか。
主にメーカーで、扱い製品は木材加工用機械、電熱式融雪ゴムマット、屋外用赤外線ヒーター、それから空調フィルターなど社によってさまざま。こうした製品をロシアで販売する案だが、残念ながらまだどれもビジネスにはなっていない。
―価格が高いからか。
もちろん価格も理由の一つ。加えて、現地の状況に適した売り方ができていない面がある。一例が融雪マットだ。北海道では一般的で、私もロシアに広めたい。そこで1年前、サンプル品をノボシの人気飲食店に寄贈し、入り口前に敷いて試してもらった。確かに雪氷は溶けるが排水事情が違った。雨や雪が多い日本はあらゆる場所で水がはけるようにするが、乾燥しがちなシベリアでは建物周りの排水設備は簡素だ。マットで溶けた水が周辺でまた凍り、かえって危険だと分かった。
―どうすべきか。
考えられるのは、既存の店や施設にマット単品を売り込むのではなく、排水を含む施設設計の段階から市場に入ることだ。一製品より、大きな意味で課題解決を提供する発想が必要だ。
―フィルターはどうか。空調設備をやっているなら相性が良さそうだ。
その通りで、販売先が当社の顧客と合う上、フィルターの現地生産も検討するという話で非常に期待していた。だが急にそのメーカーから連絡がなくなって、1年ほど音沙汰がない。ほかの外国との事業を優先するらしいと人づてに聞いたが、詳細は分からない。
―日本側に対してどんな課題を感じるか。
まず、連絡しても返信が遅い、または返信のない企業が多い。話し合った内容に沿って情報を集めて送っても、それきりということもあった。もう一つ言えば、ロシア市場に自社製品をどう知らしめるかのプロモーション戦略を深く考えない傾向がある。優れた製品でも、市場に知られなければ買いたい人も現れない。出荷して終わりではなく、PRにコストをかける発想も必要だ。
―直近で本道企業とのやりとりはあるか。
ことしに入って札幌の設計会社、一寸房と知り合った。話してみると、設計に使っているPCソフトが偶然当社と同じで、当社が作業を受託することも可能だ。日本製品を売ろうとするこれまでの話とは種類が異なる。どのように連携できるか今後よく話し合いたい。
(北海道建設新聞2020年3月9日付3面より)