今、新型コロナウイルス感染に関係して、飛沫(ひまつ)感染という言葉がよく使われるようになりました。そこで飛沫について考えてみたいと思います。
飛沫は「しぶき」とも読みます。くしゃみやせきの強い気流に押されて、唾液や鼻水、たんといった、鼻腔、口腔、咽頭などにある粘液が、霧状に飛び出したものを飛沫と呼びます。飛沫はしゃべったり、歌を歌ったりしてもたくさん出ることが分かっています。飛沫は水滴のような大きなものから、肉眼では見えないくらい細かくなって空気中を漂えるものまで、さまざまな大きさのものが一気に飛び出します。
飛沫の大部分は水分ですが、元が粘液であることから、ネバネバ成分であるムチンや粘膜の細胞の一部などが含まれています。そして、新型コロナウイルスは鼻、喉の粘膜に取り付き増殖するので、大量のウイルスが飛沫に潜んでいます。飛沫こそ感染源そのものなのです。
くしゃみやせきによって飛び出した飛沫の到達距離は1mほどといわれます。そして、空気中に放出された飛沫のほとんどは、その重さによりすぐに落下します。床や地面に落ちた飛沫は乾燥し、ウイルスは乾燥した状態では次々に壊れていきます。床や地面に口や鼻を押し付けることはないでしょうから、落ちた飛沫はほとんど無視していいと思われます。
したがって、飛沫が到達する1m以上離れていると、飛沫を直接浴びて感染する危険性はなくなります。そこで、さらに慎重に考えると、1・5mから2m離れていれば安全だということで、今、密集、密接を避けるキャンペーンがなされています。
ただ、飛び出した飛沫の一部は、非常に細かいので、落下せずしばらく空気中を漂うことになります。これをエアロゾルと呼びます。通常は、エアロゾルは非常に少量で、風など空気の流れでたちまち拡散してしまうので、危険性はありません。
しかし、密閉された風通しの悪い空間では、漂っている時間が長くなり、他の人がエアロゾルを吸い込み、感染してしまう危険性が高まります。密閉を避け、風通しを良くしなければならないのは、このためです。
今、密閉、密集、密接の「三密」を避けようと呼び掛けられていますが、飛沫による感染を防ぐために、極めて重要な注意点であることをご理解ください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)