最近の若い人ならまず使わない言葉だろう。「命の洗濯」のことである。「いい旅だった。久々に命の洗濯をしたよ」というように使う。日頃の苦労から解放され、のんびり気ままに楽しむ心境をたとえた表現である
▼ノンフィクション作家高野秀行氏もエッセー「長生きしたけりゃ旅に出ろ!」で、旅に出ると新たな刺激を多く受けるため1日が長く感じる体験を取り上げていた。これもまた命の洗濯効果でないか。高野さんは主に初めて訪れる海外の土地を例に挙げているが、近場の小旅行でも体感としては時間の流れがずいぶんと違う。「霧ふかき山ふところの温泉町かな」岩井二山。ひなびた温泉宿の露天風呂につかりながらぼんやり空を眺めていると、しばし時も忘れる
▼ただ、飲食や宿泊を含む観光関連産業は今、大変な危機にひんしている。どの業種も多かれ少なかれ新型コロナウイルスの影響を受けてはいるが、ここまで一遍に需要が消えた業種はあまりない。客足が途絶えてもう4カ月以上たつ。鈴木直道知事もてこ入れを考えているようだ。7月から、道民に旅行代金の最大半額を助成する「どうみん割」を始めるのである。予算は23億円。道内観光客の85%が道民ということを考えれば域内の観光関連需要創出効果は100億円に迫るのでないか
▼高野さんはこう呼び掛けていた。「ウォーキングなんてしてる場合じゃないですよ。知らない土地を旅して存分に延命しましょう」。せっかくである。ことしは「どうみん割」を使って命の洗濯に出掛け、自分と観光業の延命を図るとしよう。