建築の普遍性信じる
2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーに就任するなど日本を代表する建築家、藤本壮介氏が東神楽町役場を訪れ本紙インタビューに応えた。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大で生活習慣が変容する中でも「建築はロングスパンで世の中を見なくてはいけない。場所を共有し何かが生まれる。その普遍性は変わらない」と、揺るがない人の営みと自然を見つめ、建築に落とし込む姿勢の重要性を示した。(聞き手・旭川支社 門間 康志)
寄り道から生まれる出会いを
自身が育った東神楽町の庁舎を含む複合施設整備事業で、基本設計を担う。現在は実施設計(ドーコン・創明建築設計共同体)が詰めの段階で、基本設計からの変更点を説明する同町での第16回公共施設等集約化検討委員会のため来道した。
基本設計図書は、新型コロナウイルス流行前の20年1月に出来上がった。既存の役場庁舎と図書館、新設する文化ホールと診療所は、それぞれが幅3mの回廊でつながり輪になっている。「メインの入り口はあるが、いろいろな方向から出入りすることができる」という集合と離散の仕掛けは、寄り道から生まれる昔ながらの出会いを四季を通して与える。
周囲は、さらに大きな「樹木のリング」。回廊の特徴的な輪は人の目の高さでは見えず、複合施設を象徴する顔は「木立」だ。道北に広がる雪原、草原、田園、花畑に木々が立ち並ぶ悠久の風景から「北海道の森のようなものが役場の顔という在り方もこの場所なら説得力がある」と施設群を樹木でまとめた。
コロナ禍も揺るがない
にぎわいを安易に肯定できないウィズコロナ下で事業は着工する。「建築が、ライフスタイルの変化にどう対応していくかは本当にこれからの課題」と口元を引き締め、「今はまさにコロナの渦中で、色んな人が色んなことを言うが右往左往してもよくない。すぐに解答が出る問題でもない。だから、しっかりと見据えていきたい」と襟を正す。
ただ「一方で、色んな形で人が出会い、場所を共有し何かが生み出される。そこの普遍性は変わらない」と信じる。複合施設も「それを大事にしている。人間同士のコミュニケーションの多様さをつくり出したい」と述べ、コロナ前の設計方針は生きる。
回廊に結び付きと増築の余裕を与え、樹木に時を経ても古びない意匠を託す複合施設は、「閉鎖的にはしたくない」と願う町の中心点。そこから「緑豊かな街になるといい」と新たなにぎわいが広がることを希望する。
(北海道建設新聞2020年9月9日付8面より)