住宅ニーズ、不動産価値高く
「交通利便性の良い新さっぽろの土地は以前から取得しづらかったが、再開発で競争が激化した」。駅周辺で賃貸マンション新築を決めた地元不動産業者は、住宅ニーズと不動産価値の高まりを実感している。札幌学院大の新校舎と滋慶学園の専門学校が開校することで、学生約2200人が新さっぽろに集まる。さらに医療拠点も整備され、多くの人が働くことになる。
新さっぽろエリアの賃貸マンション計画件数は、再開発着手前後で大きく異なる。2014年度は3棟64戸だったが、学校移転が公表されて再開発が始まった19年度は8棟188戸と3倍近くになった。
似た動きは15年春、それまで小樽にあった旧道薬科大を、手稲区の北海道科学大前田キャンパスに集約した時にも見られた。道科学大の浜谷雅弘教授は「学生向けに古いアパートのリニューアル、賃貸マンション新築が進んだ」と振り返る。教育施設が住宅需要を呼び起こす実例だ。
むろん話はそこまで単純ではない。新さっぽろ駅周辺での賃貸住宅展開に不安を示す声も聞こえる。この地域は1973年に国鉄駅ができた時すでに住宅地で、商業施設群を囲むように戸建て住宅が広がる。その影響から「賃貸物件の適地が頭打ちになりつつある。既存の古い住宅が売りに出るのを待ち構える状況だ」(地元不動産業者)。
土地の動きを活性化するための規制緩和を求める声もある。札幌市都市計画課の高田洋課長は「必要な場所に必要な施設が建てられるよう、用途変更など時代に合わせて進めたい」と、再開発をはじめとした街の行方を見守る姿勢を示す。
再開発はG・I街区で終わらず、続きがある。最後のピースが、JR駅北側で札幌副都心開発公社が保有するA街区の敷地1㏊だ。今は駐車場で、開発に向けた動きは出ていない。
公社の川尻寿彦常務は「平地のままにしておくつもりはない。ただ、コロナ禍の中で何をやるのが正解なのか、もう少し考える時間が必要」と慎重だ。その上で「街を楽しく過ごせるような、ワクワクする仕掛けがあれば」と、地域の価値を高める開発を模索する。
オフィス整備で街に「厚み」
G・I街区の再開発計画をまとめた大和ハウス工業の菅原貴志北海道支社マンション事業部長は、再開発をさらに効果的にするために必要な施設としてオフィスを挙げる。「昼間人口が増えて、街として厚みが出る」との考えからだ。JRと地下鉄駅が直結する立地は人の採用にも有利。「広いフロアスペースを持たせればコールセンターなどの需要があるのでは」とみている。
浜谷教授も新さっぽろの青写真に対して「機能面からはオフィスなど仕事場がもっとあっていい」と指摘する。駅周辺で新千歳空港にもアクセスしやすい点など、ビジネスの場としてのメリットを挙げる。
再開発から派生する新たな事業や投資を見通すのは、民間企業だけではない。札幌市は、近隣のもみじ台地域242㏊で市有施設の土地利用再編を検討し始めた。市営住宅もみじ台団地など老朽施設改築のほか、再編による余剰地への民間機能導入を視野に、依然として懸案である「建物と人の高齢化」を克服したい考えだ。
「副都心」のさらなる発展は、厚別区全体に効果を波及させることができるのか。再開発によって変革の芽が顔をのぞかせたばかり。ゴールはまだ先にある。
(北海道建設新聞2020年9月25日付2面より)