
桑島敏彦専務
世界遺産×アートに光
北こぶし知床ホテル&リゾート、KIKI知床ナチュラルリゾート、知床夕陽のあたる家ONSENHOSTELを運営する北こぶしリゾート(本社・斜里)。知床を含む斜里町全体で年間43万人の宿泊客が訪れる中、15万人以上が同社の施設を利用している。コロナ禍による逆風を受ける中、現状とこれからの経営戦略を桑島敏彦専務取締役に聞いた。
―新型コロナウイルスによる影響はあるか。
4、5月は春の大型連休を含め全館休館し、6月2日に北こぶし知床ホテル&リゾートをオープンした。本当は開けない方がいいのではないかという葛藤もあったが、宿泊客が少ない中だからこそ運営の仕方を勉強したかった。
―特に苦労した点は。
来館時にスタッフが荷物を持つことや、食事をしている間に布団敷きが入ることなどに対し、抵抗感を覚える宿泊客も多く、サービスの在り方を見つめ直す必要があった。サーモグラフィーによる検温や消毒作業、マスク着用を徹底する一方、いったんやめたサービスを再開しながら満足度が高まる所を探っている。
―外国人観光客の減少は大きな痛手となったのでは。
この地域に訪れる外国人観光客は全体の1割程度で、依存しているわけではない。割合が多いのは6割を占める道外客だ。特に関東圏の観光客が夏に来ることが多いため、7―9月が書き入れ時となる。
―Go To キャンペーンをどう評価するか。
コロナの影響で道外客が半分になったが、道民割やGo Toの効果もあって道内客が2倍になった。メディアでのGo Toの伝わり方やホテルの手続き関連、割引額の違いから高級宿に恩恵が偏りがちであるなど、さまざまな課題があったと思う。混乱の中でスタートしたため賛否はあるが、夏の売り上げが1年を左右するわれわれとしてはありがたかった。
―ターゲットを道外客から道内客に変える考えは。
確かにことしは道内客が多くなったが、中長期的な数字ではないため、今のところメインターゲットを変えることは考えていない。また、道内客をターゲットにする際、札幌をはじめ道央圏に目を向けることになるが、札幌の人は東京など道外に行く傾向にある。気温や季節感が似ている道内の人々に、知床のコンテンツが響くかというとそうではない。宿泊単価も違ってくる。
―世界遺産という切り口ではもう新奇性がない。創業60周年を機に、新たなコンセプトや切り口が必要では。
新しい切り口の模索として、箱根にある彫刻の森美術館からアーティストを紹介してもらってコラボレーションするという活動を5年ほど前から続けている。例えばコスチュームアーティストのひびのこづえ氏に館内の浴衣をデザインしてもらったり、絵本作家ユニット「ツペラツペラ」とポストカードブックを作成したりした。少しずつではあるがこういった他分野との掛け算を進めることで差別化にもつながる。
世界遺産という強みがあるからこそ、アートの人たちとコラボするべきだ。元々持っている美しい自然というコンテンツの周りに違うものをちりばめることで、地域ブランドの向上に貢献したい。
(聞き手・福田 浩平)
桑島敏彦(くわじま・としひこ)1981年斜里町ウトロ出身。2004年札幌国際大観光学部卒、JALトラベル入社。05年に知床グランドホテルに入社。
(北海道建設新聞2020年10月8日付2面より)