大樹町に立ち並ぶ斬新な家々
2011年5月、寒冷地で環境に配慮した快適な住宅を研究するため、LIXIL住生活財団と東大、京大大学院などが参画して環境技術研究機構を設立。共同研究施設の適地を探す中、夏冬の温度差が大きい気候と同財団の潮田洋一郎理事長(当時)の縁もあって大樹町に目を付けた。
建設地は名馬を輩出してきた大樹ファーム育成施設跡。約18万5000m²の広大な敷地を所有する農業法人から借り受けて整備し、10月にメムメドウズを開設した。
緑の草原にたたずむ実験住宅第1号「メーム」は新国立競技場を手掛けた隈研吾氏が設計を担当した。アイヌ民族の伝統建築チセをモチーフに、光を透過する白い膜材の二重構造を採用。自然光を取り込み、冬でも暖かい室内空間を実現した。
敷地内に点在する斬新な外観の建物はLIXIL国際大学建築コンペの最優秀作品。住生活財団の高畑久明男代表理事によると「学生による建築コンペの優勝作品が実際に立ち並ぶのは、日本だけでなく世界的にも珍しい」という。
慶応大設計の「BARN HOUSE」はかつて育成牧場だった土地の特性を生かし、馬と人の共生をテーマにした納屋型の家。室内に馬小屋を設け、馬の代謝熱や馬ふんの堆肥化熱を熱源に活用した。室内の棚には炭を並べて脱臭と発酵を促進する。
オスロ建築デザイン大設計の「INVERTED HOUSE」は住居の内側、外側を逆転した斬新なデザイン。玄関を開けると屋外に面した居間が現れ、寝室は外壁からベッドとなる部分がせり出すような形をしている。
いずれも隈研吾建築都市設計事務所が設計監修し、地元の高橋工務店が施工を担当。最初の建築物を地元業者による一般競争入札で落札した縁から、現在も施設補修を請け負う。高橋工務店の平川秀幸常務は「初めて見る特殊な建物ばかりだから分かりやすい図面に直してもらった。工期は一般住宅より少し長い4カ月。大変だったが貴重な経験になった」と振り返る。
12年にはグッドデザイン賞の住宅・住宅設備カテゴリー部門を受賞。その後も17年まで建築コンペの最優秀作品が建ち続け、施設はいつしか「建築の聖地」と呼ばれるようになった。
(北海道建設新聞2020年10月14日付1面より)