丸富テント工業(本社・札幌)は、建設現場で使う養生シートやイベントで設ける大型テントなどを製造・販売する会社だ。最近は北海道でも夏の暑さが厳しくなっているため、シェード(日陰テント)に力を入れる。オーダーメードの1点ものが大半で、顧客から「こんなもの作れないか」と相談を持ち掛けられることが、仕事の原動力となっている。雨や雪、日差し、ほこりから街の大切な物や人を守る縁の下の力持ちだ。
津村富夫さんが1952年に北広島町共栄(当時)で創業した。最初は馬具の製造・販売を担い、高度経済成長とともに地場の建設会社から建築用の養生シートの注文を受けるなどし、業容を大きくしていった。
現社長の西塚建二さんは津村さんのおいで、80年に丸富テント工業に入った。それまでは衣料品会社の営業マンとして働いていたため、繊維には明るかった。その経験から、テント業界にもすんなり溶け込むことができた。98年に2代目を継いだ。
お客さんから相談を受け、考えに考えを重ね作り込む仕事が多い。イベント用の大型テントから駐車場の防雪ネット、シートシャッター、トラックシート、横断幕など手掛ける製品は多様だ。
悩みに悩んで新製品を開発しても、安価な規格品に後追いされることが多く、商売は決して楽でない。サイズや色、機能など顧客のニーズに合ったオーダーメード品を作ることで、市場に出回る規格品と差別化を図っている。
最近は、ファーリングシェードと呼ばれる巻き取り式の日陰テントに力を入れる。夏場のオープンテラスなどに有効なアイテムで、台風など悪天候時はパッとしまえるため、使い勝手が良い。ホテルの庭や道の駅の休憩所、結婚式場などで使われるようになった。
目下のコロナ禍は不安要素の一つだ。イベント業界が苦戦を強いられれば、テント製作の引き合いは減る。ホテルの宿泊客が減ればシーツなど洗い物も少なくなり、クリーニング業者が使うリネンカート用カバーの注文が少なくなる。じわじわと影響が及ぶことを心配している。
そんな中、飛まつ感染防止用の透明ビニールカーテンを開発した。天井のカーテンレールに取り付けて使うため、掃除がしやすい。飲食店や医療施設、学校などでも安心して使えるよう、防炎生地でできているのも特長だ。
製品作りは裁断と縫製の技術力が物を言う。同社では職人によるミシン縫いのほか、高周波ウェルダーと呼ばれる溶着加工機を使い分け、製品を仕上げている。テント生地が持つ丈夫さに、確かな裁断と縫製の技術力が相まって、納める商品はどれも長持ちする。
このため「10年前に作ってもらったのですが、同じものを頼めますか」など、懐かしい品と対面する機会はしばしば。商品としての回転率は悪いが、それが逆に信頼のバロメーターになっているともいえる。
社長を含め社員9人で仕事を回す。人材育成の側面から資格取得に前向きで、職人の帆布技能検定だけでなく、事務職員にも知的財産管理技能士や情報セキュリティー技士の資格を取らせている。
西塚さんは「お客さんの要望にどれだけ応えられるかが、うちの生命線。コロナで世の中は変わるかもしれないが、これからも前向きに頑張りたい」と話している。
(北海道建設新聞2020年10月19日付3面より)