深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り アドレス 桜井里子取締役

2020年10月27日 10時00分

桜井里子取締役

「地域と暮らす」住まい

 「定額全国住み放題」のサービスを展開するアドレス(東京)。テレワーク、ワーケーションをはじめとする新たな働き方の登場や、コロナ禍による移住・定住ニーズの高まりなど時代の変化に乗り、存在感を強めている。空き家をリノベーションした物件を中心に全国92拠点展開し、道内でも今後強める意向を持つ。その手法に関心が集まる中、桜井里子取締役に展望を聞いた。

 ―会員数を伸ばしている。

 会員はフリーランサーなど、場所を選ばず自力でお金を稼ぐ人が多かったが、コロナ禍を受けて変化してきた。外出自粛でオフィスにもレジャーにも行けない状況の中、20―30代の会社員が高い家賃を支払って都心に住み続けることに意味を失い、サービスを利用するようになった。新型コロナウイルス流行前の1、2月と、緊急事態宣言後の7、8月ではひと月の新規会員数が4、5倍に伸びている。

 拠点は主に空き家をリノベーションして設置している。電気、ガス、水道代は全て込み。敷金礼金など初期費用は一切なく、月額4万円から全国の拠点で自由に暮らせる。

 利用者増を受け、拠点が足りなくなった。リノベーションで増やそうにもコロナ禍で職人が集まらない。そこで今夏、利用者減に嘆く宿泊施設に提携を呼び掛け、3カ月で全国100施設以上から問い合わせがあった。道内のホテルも拠点として契約した。

 ―空き家を活用した拠点はどのように整備しているか。

 初期費用はオーナーに負担してもらい、オーナーの家賃収益になるよう当社と賃貸契約を結ぶ。

 空き家を活用した拠点が地域を知るきっかけになったり、物件として買いたいというケースにつながることもある。このような形で地方の移住・定住、空き家対策に貢献できたら理想的だ。

 ―利用者に求められる拠点の条件は。

 拠点が利用者の心に残るかどうかは、その町で一緒に生活する「人」にかかっている。観光は豪華な施設や素晴らしい観光スポットが求められるかもしれないが、当社は「住まい」のサービスだ。

 地域住民が拠点の管理者となる「家守」というシステムを導入している。家守は、テレワークをするのに適した地元のカフェ、楽しい人、イベントなどを紹介してくれる地域と利用者の懸け橋だ。地域おこし協力隊が家守を務めるケースも多く、みんな地域を愛している。

 ―今後の道内での展開は。

 サービス開始と同じ2019年4月に北海道に進出した。札幌4カ所、小樽2カ所、富良野1カ所の計7拠点あり、キャンセル待ちが出るほど人気だ。

 しかし、道内には宿泊施設などを借りて設置した拠点しかない。ニーズが高い道内に空き家を活用した拠点を増やしたい。

 ただし、実現には壁がある。当社は東京本社のため、視察にも多大な労力が必要。拠点開発に向けた地元パートナー企業が不可欠だ。

 空き家を活用した拠点を展開するエリアには地元の不動産業者などパートナー企業がいて、リノベーション、物品配送などを手配してもらっている。道内にもこうしたパートナー企業が欲しい。

(聞き手・宮崎 嵩大)

桜井里子(さくらい・さとこ)大学卒業後、新聞記者を経てウェブ、雑誌などメディアの立ち上げに携わる。2018年のアドレス設立とともに取締役に就いた。自身も多拠点生活を実践している。

(北海道建設新聞2020年10月26日付2面より)


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