
上山哲正社長
一寸房ブランド高める
建築・土木設計の一寸房(本社・札幌)が10月28日、東京証券取引所の新興企業向け市場「東京プロマーケット」に上場した。設計事務所の株式公開は道内初で、全国的にも珍しい。なぜ上場し、今後何を目指すのか。創業者の上山哲正社長(58)に聞いた。
―いつから上場を計画していたのか。
5年前、居酒屋で友人から東京プロマーケットの存在を聞いた。それまでは上場について関心も知識もない。だが新興企業向けというので、面白そう、目指してみるかと直感したのが始まりだ。
初めは何も分からず、社員にも苦労を掛けたが、専門知識のある人を採用し、証券会社など株式市場に関わる人たちと話しながら準備を進めた。知名度の高い東証マザーズ、札証アンビシャス市場なども考えたが、より早く上場できるプロマーケットに狙いを定めた。
―プロ市場は上場のハードルが低い半面、一般投資家が参加しないため資金調達に向かない。メリットはあるのか。
会社のブランド力が高まり、それが取引にも採用にも有利に働く。プロ市場は、企業規模・業績の基準こそ低いが、コンプライアンスをはじめ内部統制の基準は東証1部と変わらない。取引先からは、適切な経営をしている企業と見てもらう材料になる。もちろんこれで終わりではなく、成長を続け、数年後には上位の市場に進むつもりだ。
―「やりたい経営ができなくなる」と、上場に否定的な経営者もいる。
何をやりたいのか次第だろう。私がやりたいのは企業の価値を高めることで、これまで繰り返してきた言葉で言えば「社員の汗の価値を上げること」だ。上場が決まって、取引先の反応が変わった。ずっと下請け扱いだったが、大手企業から「事業のパートナー」という言葉も出るほどになった。
私も上場準備の中で、企業の在り方、資金の動かし方などをこれまで以上に勉強し、経営者として成長できたのではないかと感じている。
―将来、一般の株主が増えると経営方針にも口出しされる。
つい先日開いた株主総会だと、出席した数人の株主は旧知で、特段批判もされない。だがこれは面白くない。以前、上場企業の社長が「外国人株主から率直な意見をたくさんぶつけられて苦労したが、鍛えられた」と話していた。そちらの方が私に向いていると思う。
―今回の上場で採用にも弾みがつきそうだ。
このところ新卒と中途で毎年数十人増え、今の従業員は約190人。さまざまな経歴、国籍の社員が働いていて、雰囲気の良さはいろいろな方から評価を頂いている。前期は1年で計450人の応募があった。今期は8月からの3カ月間で150人来ている。
当社は学歴を問わず、未経験者も歓迎する。唯一の条件は、設計に欠かせない空間把握力の適性試験に通ることだ。建築学科を出ていてもこの適性がないと採用しない。
―社員を急に増やすと教育が追い付かず、現場が荒れるのでは。
幸い当社ではそういった話は出ていない。適性試験に加えて、採用時に私が候補者と会って人柄を見ることにしているのも一因と思う。
面談で最重視するのは、その人の醸す「空気感」が私と合うかどうかだ。空気感の違う人を入れると社風が変わってしまう。私は社員の仕事のやり方には一切口を出さないが、職場の雰囲気、社風を守ることには徹底的にこだわる。上場企業として今後規模が大きくなっても、この考えは変えないつもりだ。
(聞き手・吉村 慎司)
上山哲正(かみやま・てつまさ)1962年1月幌延町生まれ、80年酪農学園機農高校(現・とわの森三愛高校)卒。幌延で家業の酪農に5年従事した後札幌に移り、鉄工所勤務、会社経営などを経て2005年に一寸房創業。
(北海道建設新聞2020年11月4日付2面より)
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