デッキプレート専門工事会社の及川鉄工(本社・札幌)は、職人による職人のためのコンサルプロジェクト「職人団」を始動した。人手不足など個人や企業単独では難しい業界課題を全道の職人ネットワークによって解消しようという取り組み。建築廃材を利用した家具や雑貨づくり「リデュースクラップ」と、街の困りごとを日頃の技能で解決するよろず屋鉄工「レスキュア」の2本柱で進める。仕掛け人の宮下陸さん(30)は「職人自身が価値を創造できる集団にしたい」と話す。
人口減少や少子高齢化で、現場での人手不足や生産性低下が懸念される中、職人が培ってきた〝生の技術〟を途絶えないようにしようというのがプロジェクトの狙い。生の技術は人から人へ継ぐもので、AIやIoTなどで技術が進化しても職人が築いてきた経験や感覚は補えないと考える。
継承するためには、今いる職人が幸せで魅力的な仕事ができていることが条件。魅力的な就労環境を維持することで入職者を生み、業界も技術も生き続けるというのが職人団の発想だ。
街の困りごとを技能で解決『レスキュア』
リデュースクラップとレスキュアの2本柱で活動する。レスキュアは日頃の現地施工力を使って、街の困りごとを解決する取り組み。園内の遊具を塗装したり、手すりを補修するといったちょっとした工事をこなすイメージだ。
今はユーチューブやSNSなどでDIYが浸透し、アマチュアでも建築作業が手軽にできる。しかし人の命を守るのがプロの職人で、子どもや老人、過疎地の人々などを助けることで「未来の力になりたい」(宮下さん)と言う。
最近は中心市街地の再開発が活発で、現場では職人を多く確保することが重要課題の一つになっている。だが工程変更などから、集めた職人を持て余す場面も少なくなく、こうした際に「よろず屋」として活動すれば、街も職人も企業も万事解決するとみている。
建築廃材を家具や雑貨に『リデュースクラップ』
リデュースクラップは、建築現場で出る廃材を利用した家具や雑貨などの新商品づくり。先行して及川鉄工は、鉄筋を加工して作った表札をウェブ上で売り出している。さまざまな業種の職人が連携し、魅力的な商品を世に送り出すのが職人団のもう一つの目標だ。
仕掛け人の宮下さんは職人として現場に出る傍ら、同社の企画・広報や人材採用の業務を任され、冊子を作成したりSNSで情報発信している。北海学園大工学部で都市計画を学び、設計会社の就職を考えていたころ、近所付き合いのあった堤清丈社長に「溶接のできる建築家ってどうだ」と口説かれ、及川鉄工に入社した。
「先輩は妥協を許さず、最初のころは自分のふがいなさに悩む毎日だった。でも職人として何かつかむまでは辞められないと思い、ここまで来た」と振り返り、「僕が職人でなくなった瞬間、僕は仲間の職人にものを言えなくなる。職人みんなを巻き込みたい」と話している。
(北海道建設新聞2020年11月6日付3面より)