十勝に酔う 地酒で応援
酒蔵が少ない本道では地酒が観光戦略の強みとなる。上川大雪酒造(本社・上川)は、帯広畜産大との産学連携で大学構内に開設された酒蔵「碧雲蔵」を使い、十勝の地酒造りに取り組む。純米酒など待望の新商品を発売したばかりだ。同大客員教授にも就任し、人材育成や十勝の食材を生かした商品開発を目指す川端慎治副社長・総杜氏(とうじ)に話を聞いた。
―国内で初めて大学内に蔵が生まれた経緯を。
当社の島崎憲明会長と塚原敏夫社長が小樽商大出身ということもあり、2022年に予定する同大、帯広畜産大、北見工大の経営統合に向けた象徴的な事業だ。当社と帯広畜産大は連携協定を結んでいて、蔵を活用して地方創生を目指す。蔵は地元出資の十勝緑丘が帯広畜産大から30年間土地を借りて建設・運営し、酒類製造免許を持っている当社が施設を借りて酒造りを進めている。私は十勝緑丘の取締役も務める。
―新商品の特長は。
レギュラー商品となる初しぼり「十勝」純米と初しぼり「十勝」本醸造生の2種類を発売した。12月5日には火入れをした初しぼり「十勝」本醸造も発売する。道産の酒造好適米を使い、帯広の中硬水で醸した辛口の酒。超軟水の上川の水との違いが鮮明で、精米歩合70%の純米は、きりっとした輪郭が際立つ仕上がり。本醸造は、クリアで軽快な飲み口だ。
―人気の理由をどう見るか。
米国のバイヤーから「品質はもちろん、ストーリーが素晴らしい」と評価された。酒蔵のない地域に酒蔵を造り、それが大学の中という公共性も相まって共感を呼んでいる。十勝緑丘が実施したクラウドファンディングでは地域をはじめ大学OB、全国各地から支援を頂き、目標を大幅に上回る金額を集めた。
―大学との取り組みを。
連携協定により、大学が進めるバイオ研究に日本酒酵母が加わった。私は4月に客員教授に就き、7月に応用微生物学の講義をリモートで実施するなど人材育成に関わっている。国内では醸造に関することを学べる場所は非常に少ないし、大学には優秀な人材が集まっているので期待している。酒造りを柱に、十勝の食材と当社の酒かす、こうじ、乳酸菌などを組み合わせた商品開発も目指している。
―地域振興について。
北海道は酒蔵が少ない。地酒があれば観光に与える効果は大きい。上川大雪酒造は、札幌から北見までの通過点だった上川に人が集まることを願って生まれた。蔵の酒は今や地元の特産品として定着しつつある。帯広でもこうした効果を狙い、特に冬場の観光客が増えたらいい。十勝には豊かな食材があり、組み合わせとして選ばれるのはやはり地元の酒だ。
―今後の展望を。
ことしは年間60㌔㍑の製造を目標としたが、来年はこれを1・5―2倍まで増やすことを考えている。十勝管内を優先し徐々に道内、道外、海外へと広げたい。日本酒以外の商品開発については、管内大手菓子メーカーが当社の酒かすに興味を持ってくれている。これからも地域を大切にしながら、大学と連携したビジネスを進める。
(聞き手・星野 貴俊)
川端慎治(かわばた・しんじ)1966年9月1日、小樽市生まれ。金沢大工学部を中退し、日本酒造りの道へ。石川、福岡、岩手、山形、群馬で経験を積み、北海道の酒蔵で杜氏となる。2016年に上川大雪酒造設立に携わり、18年から副社長。
(北海道建設新聞2020年11月30日付2面より)