再生可能エネルギーとして注目される水力発電。北海道電力は出力3万㌔㍗以下の中小水力発電所開発の一環として、新得町トムラウシに新得発電所新設を進めている。山中の現場では地下6階のコンクリート建屋工事が佳境に入り、まるで地中にビルを建てているかのような光景だ。北電新得水力発電所建設所の案内で1日、現地を訪れた。(帯広支社・星野 貴俊記者)
森林面積が広く水資源が豊富な同町内に北電は7つの水力発電所を置いている。その一つとなる上岩松発電所の1号機が1956年の稼働で老朽化し、廃止となるため、新得発電所として更新を図るのが目的だ。
新得発電所は、立軸単輪単流渦巻フランシス水車に、立軸回転界磁形三相同期発電機1台を備え、使用水量は毎秒31・8㌧、有効落差82・3m、最大出力2万3100㌔㍗。調圧水槽や放水路は既存施設を一部活用する。
建設地は新得市街地から28㌔離れた十勝ダムの堤体直下で、1号機に隣接するトムラウシ278。施工は建屋など土木を熊谷組・荒井建設共同体、発電機など電気を繁富工務店、富士電機が担当する。2019年に着工し全体の進捗は3割となり、土木は6割に達した。
建屋の規模はSRC造、地下6地上1階、延べ913・5m²。地上は配電盤室、地下は1階がケーブル処理室、2階が発電機室、3階がダクト室、4階が水車室、5階が補機室、6階が排水ピットとなる。設計は北電の直営で進めた。
地中の現場は「9階建てのビルが収まる深さ。半分くらいの位置までコンクリート打設を終えた」と北電新得水力発電所建設所の武田宣孝土木課長が説明する。岩盤に接する側壁の厚さは1mで、完成までの打設量は4300m³を予定。年度内は打設作業が続くため、近くADM(本社・伊達)の仮設屋根を設ける。
水車に水を送り込む巨大な管のケーシング据え付けも同時に進行。地上の作業ヤードでは直径2m、重さ5・5㌧の入口管の寸法を微調整していた。発電機は工場製作中で、来年の据え付けを予定している。
水力発電所は、水圧管路や放水路との位置関係から地下に建設することが多く、落差や流量など自然条件に応じて設計するため同じ寸法の施設がないのが特徴だ。
新得水力発電所建設所の藤谷博史電気課長は「水車各部の形状も全てオーダーメイド。摩耗、損傷させずに効率良く運転できるよう、コンピューター解析で最適な形に設計した」と解説する。
22年6月の運転開始により、同社の十勝管内の水力発電出力は15万1400㌔㍗に増強される。同社では、再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力と比較して安定した発電が可能な信頼性の高い電源として、今後も中小水力発電所開発を進めていく方針だ。
(北海道建設新聞2020年12月10日付1面より)