消えゆく風景
「勤め始めてからずっとあったものなので、なくなるのは寂しいですね」―。札幌管区気象台の池田冬彦調査官がこう話すのは、庁舎横にそびえ立つ高層気象観測塔のことだ。気象レーダー塔として誕生し、役割を変えながら存続してきたが、時代の流れや老朽化には逆らえず、解体が決定。今は取り壊しが始まるのを静かに待っている。
同気象台に気象レーダー塔が建てられたのは1977年。気象レーダーは電波を発射し、その跳ね返りで雨雲などを観測するため、周囲が開けていることが絶対条件となる。もともとは庁舎屋上に設置されていたが、札幌の都市化が進み始めたことをきっかけに、より高さを求め約50mの気象レーダー塔建設が決まった。
建設当時は、周囲に電波を遮る高層建築物はなかったが、平成の時代に入り札幌は都市化を加速させ、塔の高さでも限界が訪れる。95年、気象レーダーは小樽市郊外の毛無山へ移転され、第一の役目を終えた。
その後、塔は新たな役目を与えられ、高層気象観測塔として生まれ変わる。朝晩2回、気象台敷地内から上空約30㌔まで気球で飛ばされるラジオゾンデ(気象観測機器)が発する情報を受信。「きょうは真冬並みの寒気が入り…」と普段耳にする天気予報はこの情報を利用している。
こうして25年間、高層気象観測の役割を果たしてきたが、表面剥離など老朽化が進み、2020年、ついに解体が決まる。札幌の都市化を見つめ続けた塔は、役目を後進に譲り、16日ごろから解体が始まる予定。高層気象観測の受信施設は、技術の進歩により、現在の塔ほどの高さを必要としなくなったため、気象台庁舎の屋上に移転された。
技術の進歩、進む大都市化―。時代の変遷とともに、まちの風景が目まぐるしく変わる中、札幌に残っていた歴史ある建造物がまた一つ失われていく。
(北海道建設新聞2020年12月15日付12面より)