民間持ち直し、公共は減
コロナ禍で人々の行動が制限され、世界全体が揺れ動いたことし1年。その影響は本道経済、また建設業界にも及んだ。そんな中で北海道銀行が12月、リポート「2021年度北海道経済の展望」を発表。編集を担当した道銀地域総合研究所(本社・札幌)の伊藤慎時経済調査部長(42)に、道内の現状と展望を聞いた。
―21年度の道内の経済成長率をプラス2.9%と予測した。先は明るいのか。
個人消費や移輸出の増加が押し上げ材料になって、プラス成長に転じる見通しだ。ただ、感染防止策が引き続き求められるためV字回復とはいかず、持ち直しのテンポは緩やかとみている。成長率は経済予測の代表的な指標だが、あくまで前年と比べての増減率だ。本年度のマイナス7.3%からは劇的な回復に見えるが、経済活動の水準を表すものではない点には留意する必要がある。
―建設業をどう見る。
本年度、来年度と2期続けて前年水準をやや下回りそうだ。今は公的部門が増加基調を保っているが、新型コロナウイルスの影響もあってそれ以上に民間の住宅投資や設備投資が落ちている。来年度は逆に、民間は持ち直すものの公共工事が減りそうだ。私たちが主要業種別に推計している純生産という指標で、建設業なら本年度は前年比マイナス1.3%、来年度はマイナス0.6%と予測した。
―公共工事はこれからどう変わるか。
出来高ベースで見れば足元は堅調だ。例えば7―9月の出来高は前年同期比20%増で、6四半期連続でプラス。だが同じ7―9月でも、先行指標となる請負金額を見ると、前年同期を8%下回っている。理由には、ここ数年のプラス材料だった災害復旧工事が一巡することなどが挙げられる。このまま推移すれば、出来高も来年度にかけて減速するだろう。
―国土強靱化の新5カ年計画が動きだすという材料もある。
リポート作成後、5カ年計画開始と本年度3次補正予算での財源措置が決まった。これを含む2000億円規模の開発事業費が補正で配分されれば、本道公共投資には明るい材料になりそうだ。
―工場など、民間の設備投資の見通しは。
来年度の実質設備投資は1.8%増を予測した。本年度は、新型コロナで需要が縮むのをにらんで製造業は投資を減らしている。非製造業でも、新球場など大型投資はいくつかあったものの、観光客激減などを受けて全体的に投資意欲は減少している。だが今後新型コロナのワクチン開発・普及が進展すること、また景気の先行き不透明感が徐々に和らぐことを前提として、再び増加するとみる。
―住宅投資でも、来年度は2.8%増とした。
本年度は新型コロナに加え、消費税引き上げ前の駆け込み需要があった前年との比較になるため、実質住宅投資を6%減とした。しかし今後、持ち家や貸家の増加が見込まれることなどから全体としてはプラスに転じるだろう。もっとも、雇用・所得情勢の持ち直しテンポの鈍さから考えると、力強さに欠ける懸念もある。
―道内のさまざまな産業の中で、建設業は今どんな位置付けか。
建設業は言うまでもなく基幹産業の一つ。道内総生産のうち建設業が占める割合は7.7%と、全国に比べて2ポイント大きい。実需に支えられる手堅さも特徴だ。地域が大きく発展するきっかけになった札幌五輪から50年近く過ぎる今、ビルの建て替え、インフラ更新などの仕事は絶えない。加えて防災関連工事などの需要は強く、堅調な推移を見込んでいる。
(聞き手・吉村 慎司)
伊藤 慎時(いとう・しんじ)1978年9月北見市生まれ。2001年小樽商大卒、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。13年東北大大学院博士後期課程単位取得退学。17年4月に道銀地域総研入社。北大公共政策大学院にも在籍する。
(北海道建設新聞2020年12月17日付2面より)