国内初、寿都と神恵内で 地元経済の衰退が背景に
国内初となる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分地選定の文献調査が、寿都町と神恵内村で始まった。連日の報道で、最終処分に対する国民の関心が高まったとの評価もあるが、応募の背景にあるのは地方の衰退という厳しい現実だ。文献調査と並行し、両自治体に設置する「対話の場」で住民らが地域活性化策を議論するが、処分地選定も地方の衰退も両自治体だけの問題ではない。国の将来を左右する2つの火が消えぬよう、この問題が国民に注目され続ける必要がある。
8月、寿都町が文献調査に応募を検討していることが明らかとなった。高知県東洋町の応募・撤回から実に13年ぶりの出来事。役場庁舎には全国から報道陣が押し寄せ、町職員は「こんなことは入庁以来初めて」と目を丸くした。
片岡春雄町長は、応募経緯を「当町は、財政のハンディを抱えた小さな町。新型コロナは三位一体改革以上になると想定した」と語る。9月に住民説明会を開くと、財政悪化を訴える片岡町長と、安全性を不安視する反対派住民の溝は埋まらぬまま、片岡町長は応募を決めた。現在も、撤回を求める住民が議会の解散請求を検討するなど対立は激しさを増している。
そんな中、神恵内村議会に村商工会から文献調査に応募検討を求める請願が提出された。要旨説明は「泊原発の隣接自治体として、原子力と共生の精神を持つ神恵内村が文献調査に協力することは当然」としたが、地元経済の衰退が背景にあることは明白だった。
寿都町と異なり、比較的賛成派の意見が目立った。村議会で請願を採択後、高橋昌幸村長は調査開始の条件として、地元意見に反して調査を進めないこと、正しい情報の提供、風評被害対策、周辺自治体での説明会開催の4点を国に要請。冷静な議論の場となるよう、環境整備に重きを置いた。
調査は始まったが、今も反対派住民の不満はくすぶる。「判断が長引けば分断が加速する」との理由で、地域全体の合意がないまま応募が決まったからだ。苦渋の判断だったとは言え、不信が深まれば関係修復は困難を極める。住民が賛否の立場を超え、同じテーブルでこの難問と向き合えるよう、両首長はその責務を果たさなければならない。
鈴木直道知事は、核抜き条例などを理由に応募撤回を求めたが、意見は聞き入れられなかった。知事意見が考慮される概要調査は阻止できる見込みだが、応募の背景にあった財政難や人口減は、道内自治体の多くで共通する課題だ。処分地がない北海道を目指すならば、この課題に真剣に取り組む姿勢が求められる。
不本意だが、全ての道民が処分地問題の当事者となった。一度は忘れ去られたこの問題が、国民的議論となるか、再び忘れ去られるのか。当事者となったわれわれの姿勢も試されている。
(北海道建設新聞2020年12月18日付1面より)