学校教育に全力 「世界に挑戦する12歳」が目標
札幌市豊平区の自然豊かな住宅街の一角で、2022年度の田中学園立命館慶祥小学校開設に向けた工事が始まった。同校を運営する学校法人田中学園の理事長を務めるのは、北海道日本ハムファイターズの元選手である田中賢介氏(39)だ。同法人は札幌市中央区にある宮の森幼稚園の運営も担う。プロ野球選手から異色の転身を遂げた田中理事長は、教育という新たなフィールドを駆け抜ける。(経済産業部・宮崎 嵩大記者)
1999年のドラフト2位で日本ハムファイターズに入団し、06年はレギュラーとして44年ぶりの日本一に貢献。チームの選手会長やキャプテンを務め、メジャーリーグでもプレーした。
教育に関心を持ったきっかけは、13年のメジャーリーグ挑戦にある。同年オフに南米でのウインターリーグに参加。1カ月滞在した国では殺人、盗難、誘拐など次々と物騒なニュースが流れ、治安の乱れに驚いた。「問題の根本に『教育』があると思った。子どもたちがどのような教育を受けて育ったかが、その国の未来に直結するのでは」。初等教育の重要性を痛感した瞬間だった。
その後、15年に北海道日本ハムファイターズに復帰し、16年には再び日本一を経験。19年シーズンをもって現役を引退した。そして「応援してくれた北海道のみなさんにに恩返しをしたい」と、海外での気付きも踏まえ、教育の道を志すことに決めた。
私立小学校開設に当たり田中理事長は、グローバル化が進む社会の中で国際的に活躍する子どもたちの未来を思い描いた。それに加えて「私立小に進んだ子どもたちを一度受験で立ち止まらせたくない」と一貫校にこだわっていた。
協力を求めるため、同じ理念を持った学校法人を自身で探し、学校法人立命館と出会った。同法人は国際教育に力を注ぎ、道内で中高一貫教育を進めている最適な協力者。自ら提携を打診しに行くと「新たな挑戦を応援する空気を持っていた」。考えが一致し、提携が決まった。
田中学園立命館慶祥小は「世界に挑戦する12歳」を目標に掲げ、英語教育を推進する。その背景にはメジャーリーグ在籍時の心残りがある。自身は語学力向上のため通訳を付けずに渡米。「じゃれあったりするくらいのコミュニケーションは取れた」というが、「ファイターズのみんなで話していたような熱い野球談義に加え、宗教や政治などの深い部分も話し合ってみたかった」と振り返る。英語教育により、子どもたちが世界で活躍するための下地を整える姿勢だ。
一方で「英語を身に付けるというのは世界で活躍するための最低ライン」と強調。「自分の意見を発信する、人の意見を聞き入れるという能力も身に付けてほしい」と考え、国語教育にも力を入れる。表現力を養うために演劇をカリキュラム化するなど、コミュニケーション能力、読解力の強化を図る方針だ。
学力以外の面を育てるための独自のプログラムも用意する。「自分が授業を担当したり、ファイターズの選手、他分野のプロが教壇に立つこともあるのでは。人生において大切なことを学ぶ時間をつくりたい」と意気込む。
「忙しい日々が続くが、この小学校が北海道の子どもたちのためになればとの一心で進んできた」―。ユニフォームを脱いだ今も全力疾走を続けている。
(北海道建設新聞2021年1月5日付1面より)