企業価値の向上が鍵に
経営者の高齢化が進む中、M&A(企業の合併・買収)が盛んになっている。ことし設立30年となる日本M&Aセンターは、譲渡・譲受それぞれの希望企業をマッチングするM&A仲介業の最大手だ。コロナ禍を受け、業界で今何が起こっているのか。札幌営業所の金子義典所長(41)に尋ねた。
―コロナ禍はM&Aにどう影響しているか。
先行き不透明感が増して、事業を売りたい側の動きが活発になってきた。当社が昨年4―9月に道内企業のM&Aを仲介した件数は前年同期比で2割増え、全国より伸びが大きい。
買う側は、異分野の企業、また同業なら自社のエリア外の企業を手に入れようとする傾向が強くなっている。コロナで外食や観光分野が極端に落ち込んだことも影響して、収益を一事業や一地域に依存することのリスクが意識されている。事業のポートフォリオを組むためにM&Aを検討する企業が増えているようだ。
―道内では銀行など金融機関が仲介役を担うケースも多い。
金融機関は地元企業を熟知しているため、地域内の企業同士のマッチングには強い。だが当社は全国規模のネットワークがあり、条件の合う企業を広く探すことができる。当社が道内企業のM&Aを仲介したうちの約半数は、道外企業との組み合わせだ。
多様なスキームを提案できる点も強調したい。M&Aにはさまざまな手法があり、双方の状況や市場環境によって何が最善か異なる。これまで6000件以上の成約実績で蓄積したノウハウは比類のないものと考えている。建設業が関わるM&Aも手掛け、業種別ではサービス業、製造業に続く3番目の多さだ。
―地方では事業売却を恥とする向きもある。
首都圏に比べればそうした傾向が残っているのも事実だが、それより、自分とM&Aは関係ない、うちのような会社に買い手が付くはずがない、と思い込んでいる経営者が多い印象だ。実際は道内に限らず、売買が成立しうる企業や事業はたくさんある。信用調査会社のデータでは、2019年に全国で休廃業・解散が4万3000件あったうち、61%が黒字だったという。事業の買い手とマッチングができていれば続けられた例も少なくないだろう。
―売却すると、経営者は退かなければならないのか。
株主は変わるが経営者がそのまま残るパターンもある。会社を成長させる手段にもなるのがM&Aだ。ある物流企業の創業者は、最高益を出しながら一部上場企業の傘下に入って信用力を高め、社長のままで事業を拡大している。似た例は道内の建設業界でもある。
―買われる側の従業員がやる気を失わないか。
従業員は、会社の経営基盤がしっかりすることで安心するケースが大半だ。典型は経営者の高齢化によるM&Aで、例えば社長が80代で後継者がいない企業に勤めていたら、将来が不安にならないだろうか。むろん、買収した側が新体制で自分たちの企業文化を押し付けるようなことがあれば問題が起きるが、そんな事態にならないよう当社でもサポートしている。
―売却を考える企業は何に留意すべきか。
自社の企業価値を高めることが第一だ。特長ある事業を展開し、他社にできない価値を生み出せることが何より重要になる。その上で純資産を確保し、黒字経営を続けていれば理想的だ。財務などのデータをきちんとつくり、会社の状態が他者に見えるようにすることも意識してほしい。
(聞き手・吉村 慎司)
金子義典(かねこ・よしのり)1979年8月長野県出身。大学卒業後、八十二銀行勤務を経て2007年日本M&Aセンター入社。18年にコンサルタント戦略営業部部長、20年から会計情報開発部部長と札幌営業所長を兼務。
(北海道建設新聞2021年1月20日付2面より)