徒歩で市街地巡る仕掛けで活性化
コロナ禍で地方が注目される中、建築家・隈研吾氏は東川町に北海道事務所を開設する。さらに今後、町の悲願である旭川家具の展示施設「デザインミュージアム」の建設構想にも協力する。どちらも市街地に整備する予定で、にぎわい創出に期待がかかる事業だ。観光客らがデザインミュージアムを中心に徒歩圏内で市街地を巡ることができる仕掛けを、現在隈氏がデザイン中。建物にとどまらず、空間、地域全体をデザインする隈氏の力で、コロナ禍に対応した地方創生モデルとして東川町の市街地活性化が急速に進もうとしている。(旭川支社・千葉 有羽太記者)
東川町の自然環境や文化資源の魅力のほか、役場や診療所、小中学校などが市街地の徒歩圏内に集約されているウォーカブルな街並みが、地域デザインの視点を持つ隈氏のアンテナに引っ掛かった。テレワーク需要の増加も後押しし、サテライトオフィス開設の思いを強めた。
隈氏と東川町は、2020年度から連携プロジェクトを開始。松岡市郎町長は「旭川空港が近いことや、本道のほぼ真ん中という立地条件などを踏まえ、隈氏から町に北海道事務所を作りたいと提案があった。町としてはデザインミュージアムへの協力を提案し、話が進んだ」と振り返る。
「またコロナ禍で家具木工業の景気が低下していたため、家具のデザインコンペに取り組むことになった」と松岡町長は話す。既に「隈研吾&東川町 KAGUデザインコンペ」として着手。3月末まで「木の椅子」のデザインを募り、6月には公開審査と表彰式を行う予定だ。
隈研吾北海道事務所は21年度にも町の発注で整備する見込み。役場や複合交流施設「せんとぴゅあ」が近い東町1丁目の町有地を建設用地としている。他の企業の需要も見込み、隈氏の事務所を含め同規模の建物を敷地内に4棟建設する計画だ。テレワークを中心に多目的で使用できる施設群として検討している。
デザインミュージアムは、個人や企業からのふるさと納税などを活用し、資金調達に成功すれば24年度ごろの完成を目指している。工事は長くても2カ年で、総事業費には20億円を見積もる。
町としては椅子研究家の織田憲嗣氏のコレクションを公有化したことなどから、同コレクションや旭川家具を展示する文化の発信拠点として整備を目指してきた。
東町1丁目から徒歩5分ほどの東町2丁目で、旧農協倉庫群の活用を検討している。既存の倉庫を改修し、織田コレクション用の「ODA棟」や隈氏の建築デザインを展示する「KUMA棟」などを設ける計画だ。
さらに、倉庫群の近くにカフェや土産販売スペースを備えた休憩施設を1棟新築する構想を練っている。木材とれんがを中心とした建物で、大雪山を眺める展望台などを設けるため2階建てを想定。延べ1000m²程度で検討している。
完成後は、町か町振興公社が運営し、家具や土産品の売り上げ、入館料、ふるさと納税の寄付金などを財源とする想定だ。
町と隈氏の構想は、デザインミュージアム建設後の先を見据えたものだ。住民や観光客がデザインミュージアムを拠点に市街地を巡り、町内のカフェやレストランなどに立ち寄る。地場産の家具の振興とともに地域経済の活性化にも期待できる。
松岡町長は「街中を人が散策している姿が町の元気の象徴。市街地に人が動いている情景をつくりたい」と展望を描く。
(北海道建設新聞2021年3月9日付1面より)