3.11が伝えた教訓 東日本大震災10年

 10年前の東日本大震災は、世界中に大きな衝撃を与えた。

 マグニチュード(Mw)9の巨大地震が引き起こした津波は多くの犠牲者を出し、福島第1原子力発電所の深刻な事故をもたらした。関連死を含め死者2万人近くに上る戦後最悪の災害だ。この震災は日本が地震大国であることを再認識させ、併せて、災害対策の不十分さも露呈させた。

 海溝型地震が現実的な確率で示されている本道。「3・11」を忘れず、その教訓を生かすことが求められている。(東日本大震災から10年取材班)

3.11が伝えた教訓 東日本大震災10年(4)老朽建築物の耐震化が急務

2021年03月21日 15時00分

避難所運営や経路確保も綿密に

 東日本大震災発生の翌日、津波にのまれた被災地の様子を伝えるテレビ画面が、白煙を上げる福島第1原子力発電所に切り替わった。当時、総務課長補佐だった泊村の高橋鉄徳村長は、「メルトダウンに至るまで大規模な原発事故が国内で発生するとは、当時の自分は想像もしていなかった」と静かに振り返った。

 震災前の原発事故対応は、地震と津波の複合災害を想定していなかったが、震災以降は事故形態や風向きなど、毎年のようにパターンを変えて訓練している。重要視するのは「全員が安全に、そして確実に逃げること」だ。

 村民が最も心配したのが津波被害。この10年間で村内各地に津波避難路6本を新設し、津波救命艇1艇を配備した。津波後に発生する原発事故対応では、2021年度予算で村内3カ所目の放射線防護施設を泊小に整備するほか、役場敷地内に防災倉庫建設を予定。震災から10年経過した今も、常に最悪を想定し、より強固な防御態勢を整える。

 泊村を含む近隣4町村が20年以上にわたり要望してきた道道泊共和線は、24年度中の開通を目指して整備が進む。その先には、開発局が高規格道路・倶知安余市道路を整備中で、この2路線が広域避難に欠かせない重要な役割を担う。高橋村長は「避難ルートが1つ増える。それは、人命保護に直接的な効果をもたらしてくれる」と早期開通に期待を寄せる。災害を教訓に、泊村は原発との共存を図っている。

 建築物の耐震化も加速が必要だ。道は北海道耐震改修促進計画を見直す。25年度までに住宅の耐震化率を95%まで引き上げ、多数利用建築物はおおむね耐震化完了を目指す。

 20年度の耐震化状況を見ると、住宅は90.6%、多数利用建築物は93.7%だった。東日本大震災前の06年度と比較すると、補助制度の拡充によって住宅で14.4ポイント、多数利用建築物で15.7ポイント上昇した。しかし、耐震性が不十分な住宅は22万9000戸、多数利用建築物は1700棟あり、大規模地震による倒壊の危険性が高い。道は旧耐震基準で建てられた住宅の老朽化が進んでいるため、耐震改修ではなく、建て替えや住み替えによる既存住宅の除去を促進する。

北海道胆振東部地震では札幌市内の里塚地区などで液状化被害が発生。揺れへの対策も急務だ

 札幌市は、08年度に策定した第3次地震被害想定の見直し作業を進めていて、月内に改定内容を取りまとめる。1月の検討委員会で示した案では、建物被害の手法見直しや耐震化の進捗などを背景に、揺れや土砂災害などを要因とする建物・人的被害が現行想定の2分の1になるという見方を示している。

 一方、避難所運営に関し、マニュアルに新型コロナウイルス感染症への対応を加えた。いまだ収束が見えない感染症への対応も災害対応と併せて求められている。2月、西区住民と取り組んだ避難所開設訓練では、症状の有無に合わせた受け付け時の対応や、感染症室の設営などを体験。密集しない状況づくりの課題を洗い出した。

 市は新たな地震被害想定を踏まえ、次年度以降地域防災計画の修正などに取り組む。また、減災に向けた予防対策や災害発生時の応急対策などを具体的に検討するほか、地域防災計画の見直しに並行して業務継続計画の改定も進めたい考えだ。

 4回にわたり紹介した通り、道内では官民問わず地震・津波対策に取り組んでいるが、十分とは言えない。自然災害は時に想定外の被害をもたらす。ただ、地震に関する研究は相当進んでいて、今後もそうした知見と過去の教訓を生かしながら強靱化を加速する必要がある。巨大地震はきょう起きるかもしれないことを忘れてはいけない。(おわり)

(北海道建設新聞2021年3月17日付1面より)


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