地元建設業の協力必要
道内自治体が厳しい財政状況にある中、庁舎や学校の建て替えなど公共事業に民間資金と経営・技術力を活用するPPP/PFIの導入が広がっている。国内各地で事業の実績を持ち、国土交通省が任命する「PPPサポーター」でもある大和リース(本社・大阪)の稲垣仁志札幌支店副支店長に、民間企業が参入するメリットや公共施設運営の在り方などを聞いた。
―道内での採用状況は。
PFIは国管轄含め27件程度。これは全国と比べると少ないと思う。一方、民間からの資金調達がないDBOの採用は道外に比べ多い傾向にある。過疎対策事業債など国からの補助金があるため、民間資金を必要としないことが理由の一つに挙げられる。それでも札幌市の中央区役所建て替えなど一定数の人口がある都市では、PFIを採用するケースが増えている。また、国交省が1月に開催した北海道ブロックプラットフォームサウンディングには8自治体が参加した。
―民間企業が事業に参入するメリットを。
PPP/PFIは、設計施工など企画段階から事業に関わることで事業費をコントロールできる。従来の発注方式では仕様が決まっていて、事業費をどう絞るかというイメージが強い。PPPは求められる性能に見合っていれば仕様は問わないし、運営を含めた計画は住民ニーズと合致する。参画する民間企業がそれぞれ知恵を出して工夫すればするほど、民間の利益にもつながる。
―建設業の反応は。
道内は一部のエリアで、ゼネコンが主体的に事業に参入しているケースが見られる。PFIやDBOは、道内外さまざまな企業が集まり、企画をいろいろ練っても、最終的な実務は建設業をはじめとする地元企業の協力がないと成り立たない。道内では振興局ごとに一定規模の建設会社がいる。弊社としては、こうした地元をよく知る建設会社などと一緒に事業ができるスキームを提案し、協業したい。
―地方を中心とする老朽化が深刻な公共施設の現状をどう見るか。
全国の多くの自治体が共通の課題を抱えていて、対応策の一つとしてPPPがある。予算の平準化や削減、住民視点での施設計画、運営方法など官と民がそれぞれの強みを生かすことが課題解決に重要だ。行政、経験・知見のある企業、地元企業などが連携して社会課題に取り組む〝コレクティブインパクト〟が必要な時代になっている。
―これからの公共施設運営の在り方は。
公共施設を造る入り口の段階で、解体費までを見通した考え方が必要になるだろう。解体費がなく建物を放置せざるを得ないケースが多く出ている。跡地活用も既存建物の解体費がなくて事業自体を後回しする自治体も少なくない。
そこで建物をリースにし、解体まで一括して契約する仕組みも今後の事業手法の一つとして検討してもらえればと思う。将来の人口動態や必要機能の変化に応じ、その公共施設が必要ならリースで継続利用するか、解体して時代に応じた別の用途に建て替えるか、次の世代が選択することができるようになる。
(聞き手・武山 勝宣)
稲垣仁志(いながき・ひとし)1970年9月生まれ、京都府出身。93年に大和工商リース(現・大和リース)入社。2015年に東京本店規格建築第一営業所長を経て19年4月から現職。17年から国交省PPPサポーターを務め、道内自治体などで個別相談や講演をしている。
(北海道建設新聞2021年3月18日付2面より)