サハリン・スケッチ

 稚内市とロシア・サハリン州の距離はわずか50㌔弱。エネルギー開発の舞台となる同州は、経済力の高さでロシア国内でも上位に来る地域だ。

 州都ユジノサハリンスクにある稚内市サハリン事務所の三谷将所長に、四半期ごとの定期連載で現地の様子を伝えてもらう。

サハリン・スケッチ コロナ禍でも取組探る

2021年03月26日 07時00分

道外貨物需要拡大、輸入増へ

 昨年来のコロナ禍によりロシア・サハリン州でも外出自粛や時短営業などが続いてきたが、年明け以降、その状況に変化が見られる。州内では国産ワクチン「スプートニクV」の接種が進み、3月22日現在3万4792人が初回、2万6341人が2回目の接種を終えた。1日の新規感染者は以前の百数十人から10人前後まで減り、治療中の患者も激減している。

 そんな状況下、飲食店の夜間営業制限、屋内イベントの人数制限などは2月で終了。公共の場でのマスク着用と高齢者の自宅待機を除き、ほぼ全ての規制が解除された。

 州民の生活が日常を取り戻しつつある3月10日、宗谷海峡を隔てた稚内港では、本年度5回目のコルサコフ港行きチャーター貨物船の輸送が行われた。主な貨物はトウモロコシ、すし、ショウガのほか、富裕層の別荘向け装飾品などだった。今回で、本年度の運航スケジュールが終了した。

 ここで本年度の輸送実績を総括したい。輸出品は生ラーメン、果物、野菜など飲食店やスーパー向け生鮮品、また調味料、飲料、お菓子などの常温加工品が多く、本船のベースカーゴといえる。サハリンと近く、短時間での輸送が可能な稚内港の特性を反映している。

 もっとも食品はロシア国家認証の取得が必要で、事前のサンプル品輸出など手続き、経費、期間などの面で課題も多い。また、コロナ禍で事業者の渡航がかなわず商談や決済が滞り、これまで多かった建設資材の輸送が減るなど、例年と比べ量が低調だったことは否定できない。

 こうした課題を踏まえ、稚内―コルサコフ間の貨物輸送が今後どのような戦略的方向を目指すべきか考察する。まず挙げたいのが道外貨物の需要拡大だ。今は道内事業者の利用が多いが、大口需要を喚起するにはコンテナ輸送も検討し、大ロットの商品を扱う道外大手の利用を図りたい。

 第二は新規事業者の育成。日本のロシアビジネスは、少数の事業者と港同士が小さなパイを奪い合っている側面もある。ロシア、サハリンに興味を持つ新たな世代、交易の担い手育成が重要だ。

 次は、輸出だけでなく輸入貨物を増やすこと。現状ではサハリンからの輸入はほとんどない。私は近い将来、北海道とサハリンの立場は逆転し、水産業以外でも、高品質のロシア産品をサハリンから北海道へ次々と輸入する日が来ると思っている。この分野は未開拓な分、先に取り組む事業者がトップランナーになる可能性を秘める。最後はPRだ。本航路でもフェイスブックなどを立ち上げ、SNSでの周知を図っている。

 コロナ禍が続いても、新たな取り組みは可能だ。つい先日、旭川市とユジノサハリンスク市のレストランをオンラインでつなぎ、シェフが調理を実演しながら新メニューを提案する事業を実施した。これは現地でまだなじみのない日本料理と、食材や調味料をパッケージングして示す試みで、将来の貨物量確保に向けたアイデアの一つである。

 今後はビジネスマッチングもオンラインで実施し、近い将来の相互交流再開に向けた布石としたいと考えているが、その前提となるインフラが、この航路である。次年度も全国の先駆けとなる先進的な取り組みを考案し、サハリン交流の最前線で事業展開していきたい。

(北海道建設新聞2021年3月25日付3面より)


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