レールの彼方に 北海道新幹線開業5年

 北海道新幹線が3月26日で開業5周年を迎えた。利用者数を見れば初年度の2016年度をピークに毎年減少し、コロナ禍の20年度は前年度の3分の1に当たる1日平均1500人で推移するなど苦戦が続く。だが沿線各地域には開業をきっかけとした前向きな変化も出ている。新幹線が地域に何をもたらしたのか、現地取材から報告する。

(経済産業部・吉村慎司、武山勝宣、宮崎嵩大)

レールの彼方に 北海道新幹線開業5年(上)つながる経済ライン

2021年04月06日 12時00分

 新青森駅の新幹線高架ホーム。北側に立って街を眺めると、駅のすぐ隣に白とグレーを基調にした大きなビルが見える。「青森新都市病院」とある建物は地下1地上7階、延べ1万7000m²の規模。一見、地元の有力医療機関にも映るが、実は函館の医療法人雄心会が17年5月に開いた総合病院だ。

 雄心会は道南で函館新都市病院(函館)など4病院を運営し、13年以降、青森で2つの病院の事業を承継した。その後青森市の後押しも受けて、新幹線駅徒歩3分の立地に2院を統合した新病院を建設。今は新函館北斗駅と片道1時間弱で結ばれる特性を生かし、高度医療の専門医に系列病院間を行き来させながら住民に医療を提供する。

札幌―ニセコ―青函 期待大きく

 函館・青森の両商工会議所は、13年から協業促進プロジェクトを展開。19年までに380社が関わり、観光客増加を見越した土産の共同開発、駐車場運営などの事業が生まれた。19年には、両地域のクリーニング業者が資本提携し、ホテル需要を狙って函館市内に工場を新設した。

 インバウンドにも影響が及んだ。コロナ禍前の19年夏、台湾のエバー航空が青森空港に定期就航。同じくエバーが乗り入れる函館空港も使って、青函を新幹線でつなぐツアー商品も出てきた。修学旅行での往来も増加。JR北海道の島田修社長は、25日に札幌で開かれた5周年フォーラムで「青森県知事も喜んでいた。道南の皆さんから移動手段として認知され、一定の手応えがあった」と語った。

地域の取り組み 問われる10年に

 新幹線は離れた都市間の人の動きを増やし、経済圏を広げる。30年度末に予定される札幌延伸で青函と札幌圏、またこの間にあるニセコ地区がつながれば、経済効果はこの5年を大きく上回る。先行投資の動きは、コロナ禍でも止まらない。

 26日昼、新幹線各駅が周年記念セレモニーで沸くそのとき、函館ベイエリアではサンケイビル(本社・東京)、伊藤忠都市開発(同)などによる客室74室規模のホテル建設が進んでいた。仮囲いの中で姿を現すのはRC造、10階、延べ6466m²規模のビルだ。

建設が進む函館ベイエリアのホテル。
手前は臨時休業中のはこだてビール

 2月下旬には川翔プログレス(本社・東京)が、新函館北斗駅前でS造、14階、2646m²、120室規模のホテル建設を発表したばかり。函館商工会議所で新幹線開業に関わった永沢大樹中小企業相談所長によれば、函館・北斗・七飯の客室数は過去5年で1800室増え、今後26年までにさらに1400室が加わる見込みという。

 将来出現するとみられる札幌―ニセコ―青函の広域経済圏。北広島市で23年の開業を予定する北海道日本ハムファイターズのボールパークも域内になる。球団の前沢賢取締役事業統括本部長は「同じパ・リーグには東北楽天もある。新幹線札幌延伸を念頭に、東北の人々にもアプローチしたい」と話す。

 人とお金の動きが活発になるこれからの変化にわがまちの将来をどうリンクさせるか、道内のどの地域にも問われている。準備期間は残り10年だ。(3回連載します)

(北海道建設新聞2021年3月30日付2面より)


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