北海道のインテリアコーディネーターの草分け的存在の三井幸子先生が、先日亡くなりました。現役は退かれていましたが、教えを受けたインテリアコーディネーターは数多く、今も仕事を続けています。私も教え子の一人で、専門学校を修了後、先生のオフィスで机を並べておりました。
先生から多くのことを学びましたが、その中に繰り返しおっしゃっていた言葉があります。「インテリアコーディネーターは黒子(くろご)」です。華やかなイメージのカタカナ職業と捉えられがちですが、実際は住まいづくりを陰で支える、どちらかというと地味な仕事です。先生はお客さまが主役であることを忘れず、己の好みを主張せず黒子に徹することを求め、自らもその姿勢を貫きました。
歌舞伎や人形浄瑠璃の黒子は、仕事をしているのに(約束事として)見えない存在です。インテリアコーディネーターは、仕事をしながら見えない存在であろうとしています。住まいの主役はお客さまですから、インテリアコーディネーターが主役を張るのはもちろん、脇役でもありません。自己主張せず、お客さまに寄り添い支える仕事ぶりは、まさに黒子です。私もそうしてきました。
生徒から「それでは私の好きなインテリアができない」と言われたことがありました。住まいのインテリアはお客さまのもので、インテリアコーディネーターの好みは反映されないのです。そして〝作品〟でもありません。
さて、黒子であるためには、ちょっとした技が必要です。インテリアコーディネーターの仕事は、①お客さまの要望を正確に聞く②要望を可能、不可能、代替案や修正案に整理する③現実的な商品選定④図面、パース、サンプル、写真などを用意し提案書にまとめる⑤言葉で提案する―流れで進みます。
このどこかに、自身の〝好みフィルター〟がかかると、黒子に徹することができません。周囲の先輩や同僚にチェックしてもらうと、自身の好みの傾向が見えやすくなります。協力してもらいましょう。
できれば〝好みフィルター〟は自分で外し、業務をスムーズに行いたいところです。その外し方をご紹介します。①お客さまの好みと一致しないことが当たり前と考える②お客さまのインテリアの好みを否定しない③インテリアイメージの引き出しを増やす―です。
①と②は、自分自身に言い聞かせ、少々抵抗があっても丸ごと相手を受け入れます。③は多くの商品と事例を自身の記憶の引き出しに入れ、いつでも取り出せるように準備します。これらはトレーニングの必要があるので少々時間を要しますが、コーディネート力が確実にアップします。
また、一度まとめた提案内容を新しい目で翌朝見ると、自身の〝好みフィルター〟に気づくことがあります。頭がリセットされると客観的な見え方が可能となり、提案の精度が上がります。早速、明日の朝、試してみてください。きっと「発見あり!」です。
私が手掛けたモデルハウスを、先生がこっそり見学されたことがありました。「本間さんらしい」と評された時はドキッとしましたが、私の好みが表れているのではなく、徹底したコンセプトの貫きっぷりが、「本間さんらしい」という表現になったそうで、ホッと胸をなでおろしました。これからも黒子であり続けることを心に刻んでおります。
(北海道建設新聞2021年4月8日付3面より)