「委託食堂」 重ねた工夫
長引くコロナ禍で、企業や施設内の食堂経営が難しくなっている。運営受託業者が採算割れで撤退し、社員食堂を維持できなくなる企業・団体も出てきた。そんな中、業者が抜けた後の食堂運営を積極的に受託しているのが、弁当配達・仕出しを主力ビジネスとするHarapeco(はらぺこ、本社・札幌)だ。中村忠昭社長(47)に委託食堂事業の仕組みと今後の構想を聞いた。
―ことしに入って百貨店、丸井今井の社食業務を引き受けるなど、食堂業者として注目されている。
委託食堂は6年ほど前に始め、現在7、8社契約している。昨年から受注が増え、近々また1社増えそうだ。顧客はホテルやマスコミ、大手小売りなど従業員の多い有力企業が中心だ。
―コロナ禍で社食も厳しいようだ。
社食はもともと一品一品が安く、採算を合わせるのが難しい。そこにコロナ禍が来て、リモートワークで社員の出社が減る、近くの飲食店が安価な弁当を売り出すなどでさらに環境が悪くなり、既存業者が手を引き始めた。
一方で、企業としては働き手不足の中でいい人材を確保するために、社食を含む福利厚生は昔よりむしろ重要になっている。当社は、食堂業者の撤退で困った企業から相談を受けて受託実績を伸ばしている。
―なぜ他社が断念する食堂を運営できるのか。
当社の弁当を調理する豊平区内のセントラルキッチンで、食堂向けの料理も作る。それを各食堂に運び、現場では簡単な加工と盛り付けだけにして全体のコストを低く抑えた。私は「出張社員食堂」と呼んでいる。社食は単価が安い半面、多くの場合家賃や光熱費を負担しなくてよい利点もある。スタッフと食材を効率的に動かすノウハウがあれば事業はできる。
―自社の創業は11年前、当初は住宅街のレストランだった。
地域住民の人々から好評を頂いて約7年続けたが、駐車場がないなど立地の厳しさもあり経営的には苦しく、顧客からの依頼で始めた弁当配達業への移行を決断した。
食堂もやはりレストラン時代に頼まれて始めた事業だが、実は最初の案件はいろいろあって大失敗に終わった。だが当社サイトの事業紹介欄から「食堂委託事業」という文字を消すのを忘れているうちに公共施設からオファーを頂き、再び挑戦することになった。直前に優秀な料理人と出会ったことも幸いして、今度は成功した。
―弁当事業はどうか。
こちらは非常に厳しい状況だ。コロナで各種のスポーツ大会、会社の大きな会議やレクリエーションなど人が集まる行事が激減し、売り上げは落ち込んでいる。これをカバーする意味でも食堂事業を伸ばしたい。
―社屋に食堂を持つような大企業はそれほど多くないのでは。
当社はセントラルキッチン方式のため、企業側に厨房設備が要らない。社食がない中小企業でも手軽に社員向けの簡易食堂を設けることができる。むろんオフィスばかりでなく、例えば建設現場でのサービスもあり得る。
―今後のアイデアは。
コロナ禍で企業が事務所を縮小する話も耳にする。いずれ働く場所が自由になれば、1社1食堂は成り立たないかもしれない。今考えているのは、シェアオフィスのように複数の企業の従業員が使える食堂を開発して、オフィス街などで展開することだ。状況の変化にうまく適応しながら事業を発展させたい。
(聞き手・吉村 慎司)
中村忠昭(なかむら・ただあき)1974年4月札幌生まれ。90年平岸中卒、鉄筋工として建設会社に入社。95年に独立し、百貨店向けの催事販売業を営む。不動産関連事業などを経て2010年にレストランHarapeco開業、14年10月に株式会社化。
(北海道建設新聞2021年4月21日付3面より)