北海道は新型コロナ感染拡大の第4波に洗われています。第4波は4月中旬ごろに始まって、その原因はイギリス株とよばれる変異型ウイルスのまん延によるものです。この変異株は、従来の株と比較して感染力が強いので、急速な感染拡大を引き起こしました。最大級の警戒が必要です。
変異株とは、それまで優勢だったウイルスの遺伝子が、感染して増殖を繰り返すうちに、遺伝子配列のミスコピーが起こったことにより生じます。実はミスコピーは普通に起こりうるのですが、そのほとんどは、ウイルス自体が活動しなくなるので、次世代に受け継がれることはありません。
ただ、極めて低い確率で活動しうるウイルスができることがあり、このうち、さらに低い確率で次世代に受け継がれると、変異株として定着します。今回のイギリス株も、そんな宝くじに当選するよりはるかに低い確率でたまたま生じた変異株でしたが、極めて厄介な性質を兼ね備えていました。
新型コロナウイルスは、ヒトの細胞に取り付くとき、細胞にある特定のタンパク分子に結合します。変異によって、より強力に結合することができるようになりました。従来は結合しても、また離れたりすることがあるのですが、変異株では相当がっちりと結合して離れにくいようです。
結合した変異ウイルスは、タンパク分子ごと細胞内に取り込まれ、ウイルスの遺伝子のコピーがスタートして、細胞の中でウイルスがどんどん作られます。ついに細胞が壊れ、大量のウイルスがまき散らされて、また周囲の細胞に取り付くわけです。結合力が強いので、周囲の細胞に取り込まれる確率も飛躍的に高まって、変異株ウイルスはからだ中に広まり、従来より早く発病し、また圧倒的に多くのウイルスが飛沫(ひまつ)に含まれます。
したがって、やすやすと周りの人に感染させてしまいます。感染力が強いので、これまで重症化しにくいとされた中年の人や基礎疾患のない人も重症化しやすくなります。また、感染しにくいといわれていた子どもや10代、20代の感染が飛躍的に増えています。
これまでの対策では、感染を完全には防げない危険性があります。方法を変える必要はありませんが、対策の徹底が重要です。手洗いの回数を増やす、マスクを正しく装着する、なるべく不織布マスクにする、マスクを外したら会話しないなど、再点検しましょう。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)
(北海道建設新聞2021年5月14日付3面より)