時には「三現主義」実践を
コロナ禍での生活も1年を超えました。その間、企業にはテレワークが推奨され、ウェブ会議システムが活用されるようになりました。時間や場所を有効に活用できる働き方が可能となっています。
行政書士はパソコンと通信環境、電話があれば仕事でき、テレワークに適した職業です。お客さま側もウェブ会議システムへの心理的障壁が減少したため、遠隔地の方に対し「今から打ち合わせをしましょう」と気軽に伝えることができるようになりました。
一方、対面の重要性は増しているとも感じます。ウェブ会議システムは発言に際して相手に気を遣い、思ったことを言いづらい傾向もあるようです。実際に会うことで理解が進んだり、話が素早く奇麗にまとまったりすることも多く経験しました。
私は、そもそもからお客さまとお会いすることを重視しています。きっかけとして今まで2人の方に、対面の重要性を伝えられたことがあります。
一人は会社員時代の先輩です。その方は前職で製造業に従事しておられ、その経験から三現主義を教わりました。現場と現物と現実の3つの「現」を重視し、実際に現場に行き、現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図るべきであるという考え方です。それまで机の上で資料を見比べ考えていた私にとって、より効果的で効率的な業務に結び付き、成果物の質も向上したと感じます。
もう一人は行政書士の先輩です。どんなに忙しくなり、通常業務の対応を従業員に任せるようになっても、お客さまには時間を見つけ会いに行きなさいと説いてくれました。電話より郵送より、対面で会うことの重要性を強調していらっしゃいました。
一般に行政書士の顧客は中小企業で、対応してくれるのは社長がほとんどです。日中は現場に出ている方も多く、夜7時からの打ち合わせや週末の打ち合わせなどもよくあります。ところが、そのような時間に会社へ訪問すると、他の従業員がいないこともあるのか、ゆっくりと話をお伺いすることができます。
話される内容は業界動向などですが、実体験に基づくため興味深いですし、他のお客さまとの会話のヒントにもなります。業務以外のご相談を受けることもしばしばあります。お客さまにとっても自分の中にためてあった、誰にも吐き出せない思いが漏れ出す機会になっているのかもしれません。
おかげさまで、遠くは道外のお客さまのところにも、飛行機を乗り継いで行くことがあります。時間の関係上、観光もできずにとんぼ返りとなる場所もありますが、実際にお会いしてお話を伺わなければ分からないことに出会うたび、いつも心を躍らせています。
直接、場を共有することで、信頼関係がより強くなるとも感じます。今後も、思いが聞こえる瞬間のために、フットワーク軽く、好奇心を強めに、行動していくつもりです。
ウェブ会議システムにも従来型のコミュニケーションにもメリットはあります。時と場合と、戦略で、賢く使い分ける能力が、今後を生き抜く力として必要になるのかもしれません。
(北海道建設新聞2021年6月3日付3面より)