価値保つため 限られた選択 組合活動健全化、第一歩に
築40年を超す老朽マンションが今後10年で3倍に増える。1972年の冬季オリンピックから来年で50年。国を挙げた大イベントで都市化が急激に進んだ市内では、いまや耐震性能など安全性に不安のあるビルが林立している。
住宅流通研究所(本社・札幌)によると、市内に初めて分譲マンションが誕生したのは1964年。以降2019年までに3470棟17万7631戸が供給された。このうち、現時点で築40年以上の物件は495棟2万9884戸に上るが、10年後には1415棟7万4136戸と大幅に増加する見込みだ。
老朽物件への対処策は大規模修繕、または建て替えだ。分譲マンションの場合、再建は住民の合意形成がなければ先に進めない。マンション建て替え円滑化法では、区分所有者の5分の4の同意を得られれば建物と敷地を売却し、次の事業に取り掛かれると定義されている。しかし、不動産事業者からは「反対者を実際に退去させるのは難しく、結局全戸買い取りでなければ再建できない」との意見が大半だ。
このため、札幌市内にある分譲マンションの老朽化対応は大規模修繕が一般的で、建て替え事例は極端に少ない。市も全て把握できていないほどで、不動産関係者などによると10年以上前、中央区や南区の北海道住宅供給公社の物件などで数例あった程度という。
対処策を決める以前の問題もある。修繕積立金の不足、また意思決定を担う管理組合の役員確保難などだ。
北海道マンション管理組合連合会の平川登美雄会長は、「高齢化した住民の転居や相続により空室率が増加している」と現状を打ち明ける。修繕積立金未納の空き室が中古で売りに出された場合、次の所有者が滞納分を全額負担しなければならないケースが多い。当然、そうした物件は買い手から敬遠される。売却できなければ積立金の滞納は増え続け、さらに売れなくなる〝負のループ〟に陥る。
適切な修繕ができているかどうかは、その物件の価格評価に直結する。平川会長は「積立金が回収しきれず劣化箇所を放置すれば、価値は下がる一方になる」と指摘。マンション内のコミュニティーを維持し、組合活動を健全化させることが課題解決の第一歩だと強調する。高齢化にともない、管理組合が実質的な役員不在ともなれば、意思決定が遅れて対処がタイミングを逸することにもなりかねない。
一方、首都圏では老朽マンションの再生事業が新たな市場として根付いてきたと話すのは東京カンテイ(本社・東京)の井出武市場調査部上席主任研究員だ。「背景としては、土地の不動産価値が高いことや、容積率を余らせている古い物件が多いことが考えられる」と説明する。
現在の容積率に沿って土地を高度利用することで戸数を増やし、その住戸を保留床として売却する。売却金で区分所有者の負担を軽減できるならば、再建の同意は得やすくなる。中には区分所有者の負担ゼロで再建できた事例もあったという。
井出氏は「保留床の価格は立地に左右される。札幌では都心部や円山地区などの人気エリアや、地下鉄近くで高額な分譲が見込める」とみる。条件は限定的だが、東京と同様に再生事業が進む可能性を秘めていると注目する。
(北海道建設新聞2021年5月27日付1面より)