5G時代 S―CMC普及期待
FJコンポジット(本社・千歳)は、複数の違った材料を組み合わせて新しい材料を作る「複合材料」の開発・製造会社。5G通信基地局のデバイスで使われる半導体用ヒートシンク(放熱材料)や、電気自動車のパワーコントロールユニットに使うセラミック絶縁回路基板などを手掛ける。顧客は世界各国にわたり、コロナ禍でも引き合いは強い。津島栄樹社長は「いずれもクリーン社会に貢献できる技術。もうけではなく、社会に貢献できるかどうかで今後も仕事を決めたい」と話す。
津島社長は1957年、札幌出身。北大大学院(機械工学)修了後、石油会社の研究所に勤め、炭素繊維開発に従事する。だがバブル崩壊で研究所が廃止となり、研究をやめて会社に残るか、成果を生かし起業するか二者択一に迫られる。2002年、自宅のあった静岡県富士市に「有限会社FJコンポジット」を設立した。
FJは富士、コンポジットは複合材料を意味する。炭素繊維とエポキシ樹脂を組み合わせ、ゴルフシャフトやテニスラケットなどのもとになるのが一般的な複合材料。津島社長は、石油の精製過程で出るピッチから炭素繊維を作り、樹脂との複合材料にすることで燃料電池のセパレータ板に使えないか研究していた。
当時は燃料電池車が脚光を浴び、ホンダやGM、BMWがモデル車を発表したり、カナダ・バラード社の燃料電池に熱視線が注がれるなど沸いていた。第一線の研究者として、学会や講演会に引っ張りだこ。研究内容を惜しみなく人々に説明した。
「積極的に公の場へ出るのは綿密な作戦からだった。ベンチャー企業の課題は資金。名が売れ、事業の将来性に賛同してもらうことで、ベンチャーキャピタル4社から合計1億8500万円の出資を受けられた」と明かす。「手の内を明かしているのは昨日までの知識。自分たちは明日の世界に生きているのだから、昨日までの知識を知られても何ともないと思っていた」と振り返る。
15年、新千歳空港近くの工業団地に工場を建設し、拠点を故郷の北海道に移す。燃料電池セパレータ板のほか、携帯電話の基地局デバイスで使う半導体用のヒートシンクや、電気自動車のパワーコントロールユニットで用いるセラミック絶縁回路基板など主力製品は増えた。
スーパーCMC半導体用ヒートシンク(S―CMC)は、独自開発の銅箔(はく)とモリブデン箔を積層した材料。熱伝導率が高く、熱膨張率が低いのが特長だ。15年に、ものづくり日本大賞の特別賞に選ばれた。3Gや4Gの時代は活躍の場が限られたが、5G下では性能をフルに発揮できるため、普及を期待している。
セラミック絶縁回路基板(S―DBC)は、バッテリーとモーター間の直流・交流を変換する周波数変換装置向けの材料。最近は、電気自動車の速度を制御するパワーコントロールユニットで使われている。銅板とセラミックの接合品で、接合界面に合金属がないため熱伝導率が高い。
携帯電話の基地局は世界に4000万カ所ほどあり、S―CMCの市場規模は年間200億円になるとみている。S―DBCは電気自動車1台当たり10―30個の使用により年間1兆円、燃料電池セパレータ板も大型車両向けで1000億円の規模に成長すると見込む。
津島社長は「いずれも開発に20年以上を要した技術。最近は1年ほどで成果を求められる企業が多いが、それでは模倣されやすい。20年かけて開発したものは模倣できない。FJにはアドバンテージがある」と話す。
(北海道建設新聞2021年6月28日付3面より)