全道で1万8889件 札幌の住宅需要が一因
道内での土地取引が、2008年のリーマンショック以降最多のペースで進んでいる。2021年1―4月に全道で1万8889件の取引があり、2008年以降の同期間で最多となった。札幌市内を中心とする旺盛な戸建て住宅用地の需要が一因とみられる。(経済産業部・宮崎 嵩大記者)
国土交通省不動産・建設経済局がまとめた土地取引規制基礎調査概況調査の結果(売買、相続含む)から1―4月の動向を分析した。全道の取引のうち、札幌市が6634件と約3分の1を占める。翌年に消費増税を控えた18年に次ぐ件数だ。
札幌市の1件当たりの平均取引面積は282m²。全道の1件当たりの平均取引面積が8300m²であることから、札幌市では戸建て住宅用地など、小さな土地が多く動いている様子がうかがえる。実際、21年1―5月の札幌市戸建て住宅建築確認件数を見ると、過去5年間の同期間としては最多の2102件を記録している。
ある不動産業者は「市内の住宅用地は宣伝すらしていないのに勝手に売れていく」と証言。最近は従来の人気エリアに加え「郊外で比較的土地が安価な厚別区、手稲区、清田区などの住宅地が求められている」と説明する。
とはいえ道内全体を見れば、札幌市内の土地は郊外であっても高価。各住宅事業者が予算の合わない顧客に対し、近郊市町村の土地を勧めるケースは多い。日本不動産研究所(本社・東京)の石川勝利北海道支社長は「札幌から流れてきた近郊での戸建て住宅新築が、全道的な取引件数増加につながっているのでは」とみる。
「札幌市近郊で戸建て住宅用地を探す人が増えている」と実感を込めるのは、千歳市産業振興部産業支援室開発振興課の木滑一博課長。同市が分譲する文京ニュータウン(全720区画)と福住住宅地(341区画)の1年当たりの合計成約件数は、20年度がこの10年間で最多となる28件に達した。ことしも好調に推移しているという。
道内の土地取引件数は08年9月のリーマンショック後大きく減少したが、低金利などによる戸建て住宅新築の盛り上がりもあり、17年からは6万件台とリーマンショック前の水準に並んだ。
そこに直撃したのがコロナ禍だ。国内の感染者数が少なかった20年1―3月は、過去10年間の同時期のうち3番目に多い好調な滑り出しだったが、緊急事態宣言などがあった4―9月は前年同期比で8.7%減少した。
風向きが変わったのは、米国など海外でワクチン接種が始まった20年12月。同月の道内土地取引件数は、1カ月間の記録としてリーマンショック後最も多い6931件をたたき出し、21年の旺盛な取引につながっている。
この勢いは続くのか。石川支社長は「金利上昇などで住宅建築資金の借り入れが滞ったリーマンショックと、外出自粛により商談などが進まなかったコロナ禍では取引落ち込みの性質が違う」と指摘。「20年12月からの取引増は、それまで抑えられていた戸建て住宅購入の動きが上乗せされているとも考えられ、一過性の可能性もある」との見方を示す。
また住宅業界には、ウッドショックなど強い向かい風が吹いているのも事実。木材供給不足による受注制限や、値上げを受けた購買意欲低下が懸念されている。活況な土地の動きの裏には、不安の種も見え隠れしている。
(北海道建設新聞2021年7月13日付1面より)