日本人の3人に1人は高血圧症だと推計されています。そして実際に病院に通って治療を受けている人は2400万人いるという報告があります。高血圧症は、ごくありふれた病気といえます。高血圧の治療に使われる薬を降圧薬と呼びます。血圧を下げる作用があるので、降圧というわけです。
降圧薬は大きく2種類に分けることができます。一つは血管の緊張を解いて拡張させ、血圧を下げる血管拡張薬です。もう一つは、血液量を減らすことで、血管の緊張を緩めて血圧を下げる降圧利尿薬です。降圧利尿薬は血液量を減らすためにおしっこの量を多くします。血液の水分をおしっことして体外へ出すことで血液量を減らすのです。おしっこがたくさん出るので利尿薬と呼ぶのです。
実は降圧利尿薬は血管拡張薬より多く使われていて、高血圧症と診断された時に最初に使うのは降圧利尿薬がほとんどです。つまり、高血圧症の患者さんの大半が飲んでいる薬なのです。
この薬を飲むと、結構な量のおしっこが出るので、水分不足になる危険性があります。通常は水分不足になるぐらいのおしっこが出ても、飲み物をとることで、補えています。しかし、猛暑の時期は、発汗のために、水分不足が助長されやすくなります。水分不足のまま暑い環境にいると、発汗が進んで脱水状態になり、体温の上昇が起こって熱中症になってしまいます。降圧利尿薬を常用している患者さんは、熱中症のリスクが高くなるといえるのです。
私は冬のマラソン大会に参加して、後半に急速に息苦しくなりスローダウン。何とか完走したものの、ゴール後にめまいが起こって、その後数時間にわたって動けなくなった経験があります。熱中症の症状で、給水してもなかなか回復しなかったのです。
なぜ、冬のマラソンで熱中症になったのかというと、治療のため常用している降圧利尿薬のせいだと、後で判明することになりました。薬で血圧を低く抑えていたのですが、慢性的な水分不足になっており、マラソンという運動が加わって、さらに水分を失って発汗が止まり、熱中症に至ったのでした。今は、レース前に薬を飲むことは避けて、レース後に薬を飲むようにしています。
高血圧治療を受けている方、この夏、熱中症に気を付けてください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)
(北海道建設新聞2021年7月22日付3面より)