「脱炭素が第一」 積極的に建設DX
會澤高圧コンクリート(本社・苫小牧)が建設DXに積極的だ。AIを用いた生コン品質判定技術を開発したり、複合現実(MR)を活用した遠隔支援システムを現場投入するなど展開している。視野にはイノベーション・マーケティング集団としての姿があり、SDGsが叫ばれる中で業界のトップランナーとして脱炭素化にも取り組む。會澤祥弘社長の考えを聞いた。(経済産業部・佐藤 匡聡記者)
―遠隔臨場について。
MRを活用した遠隔支援システムをコンテンツ開発のハニカムラボ(本社・東京)と共同開発した。ヘッドマウント型デバイスを利用することで、工場に出向くことなく事務所からコンクリート製品の立会ができる。将来は大型プレキャスト製品の寸法精度を瞬時に判定するなど、品質管理の完全自動化を実現させたい。デジタル技術は、コンクリート構造部材の供給ビジネスで不可欠な要素になる。
―AIの活用は。
ミキサー練り混ぜ時の画像や音響データなどから、スランプを即座に判定するAIシステムを開発した。AIはロジックの世界でないため、不確かなものに対して使える。生コンのように〝究極のすり合わせ商品〟に適している。
一方、どんなに技術が進んでも人間が最後に介在する部分は残る。誰がやっても同じ答えしか出ない仕事はAI、個人がやらないと結果が出ないクリエーティブな仕事は人間がやればいい。AIは人と対峙(たいじ)するのではなく、サポートする技術だと思う。
―脱炭素の流れにどう向き合うか。
日本の2030年に向けた温室効果ガス削減目標が13年度比46%と示され、残り8年間で地球の行く末のかじ取りを変えなければならない。産業を問わず、企業は脱炭素を最優先に取り組まなければ行動できない時代になった。
セメント産業は世界のCO排出量の約8%を占める。セメントがあってこそ文明が成り立っている側面もあるが、いま行動を起こさないと世の中から相手にされなくなると思う。
当社はこれまで「安全第一、品質第二、生産第三」という風変わりなモットーを掲げてきた。重要3事項にあえて序列を付けることで、判断に迷ったときの基準を社員に明確に示すため。これを20年ぶりに見直し、「脱炭素第一」を最上位概念に示した。
―壊れないコンクリートの狙いを。
脱炭素第一を掲げた同時期、自己治癒コンクリートの「バジリスク」を上市した。これまでは規格大量生産モデルとして壊れるものを作ったが、壊れないものを作ろうという意思表示からだ。無くなるかもしれない需要について懸念するよりも、脱炭素社会に向かって走るテクノロジーカンパニーとして生きる方が、よっぽど将来があるじゃないか―という発想の転換だ。
スマートマテリアルになる方が、鉄など他のマテリアルとの対抗力が強くなる。マテリアルとして進化することは、コンクリート産業としては悪いことではない。
―今後注視する事業は。
直近ではプラスチックだ。現状、ペットボトルなど廃プラの回収は進んでいるが、8割はサーマルリサイクルとして燃やされている。しかし中国が輸入禁止を表明するなど、廃プラは行き場を失っている。マサチューセッツ工科大の研究者と協力し、廃プラをガンマ線で改質することで、砂の代わりにコンクリート材料として使えないか考えているところだ。
―業界での立ち位置について。
コンクリート屋ではなく、コンクリートをベースにテクノロジーを掛け算するスタイルの会社を心掛けている。
昭和はモノを売る時代、平成は情報の時代だった。令和は生き方を売る時代だと思う。迎合するわけではないが、共感されない会社は駄目になると思う。ゆえに社会的課題に対し、どこよりもちゃんとやりたいと思っている。
テクノロジーを持っていれば、ファブレスでもメーカーができる。目指すのは、新しい事業モデルを提案したり創出するイノベーション・マーケティング集団だ。
會澤祥弘(あいざわ・よしひろ)1965年生まれ、新ひだか町出身。88年中央大卒、日本経済新聞社入社。流通経済部記者やニューヨーク特派員などを経験。98年に會澤高圧コンクリートに入社し、2008年から現職。
(北海道建設新聞2021年8月6日付3面より)