会社探訪記

 地域に根差した企業を不定期で紹介します。

会社探訪記 植松電機 ロケット開発を支える

2021年08月17日 12時00分

業界横断的な課題解決が必要

 宇宙ロケット開発で広く知られる植松電機(本社・赤平)だが、本業は解体現場などで使うリサイクル用マグネットの製造販売だ。20年間でおよそ7000台を全国で販売し、市場シェアは9割を誇る。従業員30人弱の工場が取り組むマグネット事業が、北海道の民間ロケットのパイオニアを支えてきた。

玉掛けに使う敷板鋼板用マグネットなどを指さす植松社長

 同社は1962年に植松努社長の父親が芦別市内で創業。元々は炭鉱で使う電気機械の販売修理を手掛けていたという。現在の主力製品は、解体現場のがれきから鉄をより分けるバッテリー式マグネットだ。車両のバッテリーを電源とする電磁石で、油圧ショベルなどのアタッチメントにボルトで取り付けて使う。スクラップ回収作業の効率化に役立てることができる。会社員として働いていた植松社長が名古屋からUターンし、北見工大で学んだ流体力学の知識を生かして開発した。

 大手建機メーカー各社に取り扱いを委託し、主に中小のリサイクル業者や解体業者が利用する。コストやリサイクルへの意識が高い西日本での需要が特に大きいという。首都圏については、高度経済成長期の建物が寿命を迎えつつあるとして「今後の解体でマグネット需要も高まるのでは」と期待を示す。

 口コミで評判が広まり、売り上げはおおむね右肩上がりで推移した。大企業の発注が取りやめになる、特許侵害との虚偽の中傷を受けるといった苦境も乗り越えてきたという。現在の年商は5億円ほどで、「おかげでロケット開発ができている」と笑顔を見せる。

 最も多忙だったのは、建設リサイクル法が施行されて需要が高まった2002年ころだ。修理依頼も増え、全国の現場を東奔西走した。遠くは沖縄の宮古島も訪れたが「観光の暇は全くなかった」。直接の販売先ではなくてもユーザーと自らやり取りして現場の声を聞いた。「電話の鳴るのが怖いころもあった」が、いつからか追加注文など好意的な連絡が増えたという。「お客さんに育ててもらった」と感謝を口にする。

 その後の改良で製品の不調をユーザーが判断・対応できるようにしたこともあり、今は現場に赴くことはほとんどない。修理依頼も20年前などに販売した製品ばかりだという。コイルを巻く、自作の制御装置を取り付けるといった一連の工程を全て自社でするからこそ、壊れにくい製品ができていると自負する。

 「製造業で技術の囲い込みは危険」と考え、技術の分散を大切にする。工程別に担当者を置かず、1人が製造の最初から最後まで携わる形だ。

マグネットを作る工場。工作機械も自社で製作・改造している

 マグネット事業と並行し、北大と共同でロケット研究を始めたのが05年。宇宙を目指して150台のロケット打ち上げに挑んできた。

 挑戦の姿勢はロケット開発以外にも広がる。母校の北見工大と共同研究を進めるのが、直径1―1・5m想定の大型ロボット掃除機だ。神社や寺の砂利道で落ち葉だけを掃除できる機械を作ろうとしている。他にも知人の頼みなどがきっかけで、サロマ湖のホタテ貝養殖を支援する自動化機械や、植物から精油を採取する蒸留器などを開発中だ。

 「日本では業界横断的な研究開発や課題解決が少ない」と指摘。物作りを助けるネットワークづくりを、SNSも活用しながら試験的に始めたという。

 多様な取り組みの根本には「この仕事を人間がするのはかわいそうだ。何とかしなければ」という思いがある。「技術に優劣はない。世の中が良くなることが一番大切だ」と信念を語った。

(北海道建設新聞2021年8月10日付3面より)


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