鋼材値上げ 国際的に適正なマージン確保が課題
鋼材価格が過去に例のない値上がり傾向を示している。鉄鉱石や原料炭の高騰が背景で、新型コロナウイルスからの経済回復を背景に需給のタイト感は今後も続き、先々も状況は厳しいとみられる。現状の市場環境や今後の動向を日本製鉄の新谷泰久北海道支店長に聞いた。(経済産業部・佐藤 匡聡記者)
―値上がりの背景は。
昨年初めから新型コロナウイルス感染症の影響で世界経済は落ち込み、世界中の鉄鋼メーカーが減産を進めた。だが世界の粗鋼生産高の6割近くを占める中国がいち早く経済を回復させ、5月には日当たり粗鋼生産で過去最高を記録。他国の需要が戻っていない中で、鋼材の主原料である鉄鉱石の価格が高騰した。
昨年央には世界各国の経済が底を打ち、日本も年後半には自動車をはじめとした製造業が回復した。世界的な経済回復の中で、原料炭や鉄スクラップが高騰し、加えて資材費、物流費も上昇した。
一方で日欧米の設備は老朽化が進展し、需要増をキャッチアップできず、鋼材の需給は極めてタイトな状況が継続している。
―値上げの規模について。
建物の柱や梁で使われるH形鋼は昨夏以降、1㌧当たり累計4万円強の値上げをお願いしている。鋼管やコラム、塗装鋼板などの材料となる熱延コイルは、世界的な需給タイトを反映した国際市況の高騰もあり6万円、橋梁などで使われる厚板は5万円を依頼中(いずれも店売り価格、8月上旬時点)。
―今後の価格推移は。
需要面では、世界のGDP成長率は2020年度のマイナス3%から21年度はプラス6%の見込みであり、世界経済はおおむね回復している。近年の日本の鋼材消費は年間6000万㌧強で、19年度は5900万㌧、20年度はコロナ禍の影響で5300万㌧まで低下したが、21年度は5650万㌧まで回復するとみている。コロナ禍や米中対立など不透明感はあるが、総じて需要は堅調だ。
一方、供給面では、高炉メーカーは製造時にCOを大量に発生するため、全世界的なカーボンニュートラルの流れの中、設備の新設や増強は進めにくい状況。特に中国は、足元で政府が国内の鉄鋼業に対して環境規制の強化や粗鋼の減産を掲げる。鉄鋼製品にかかる輸出税の還付の撤廃を進め、地方の省では減産を指示するところもあり、下期に向けて供給が減少する可能性も出ている。
いつまで、どこまで価格が上がるかを定量的に捉えることは難しいが、価格形成に大きな影響を与える鋼材の需給環境はタイトな状況が継続する可能性が高いとみている。
―道内の状況をどう見るか。
土木は、国の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」で堅調。建築は20年度、新型コロナによる物件の中止・延期で苦戦した部分があったが、21年度は札幌市内の再開発やニセコなどのリゾート案件が後半から見えてきていて、需要は回復に向かっているとみる。
道内の普通鋼の需要は年度当たり100万㌧を超えていたが、19年度は90万㌧だった。20年度は前年度を上回る92万㌧で、コロナ禍から各品種が軒並み減少したが、鉄筋はボールパークなど大型案件や冬季も工事が続いた案件があり、非常に好調だった。21年度は鉄筋の反動減の可能性はあるが、他品種が盛り返し90万㌧はクリアできると思っている。
―設計変更の影響について。
鋼材だけでなく、コンクリートや木材も需給がタイトな状況にあり、設計段階でS造からRC造やW造へ流れるのは考えにくいと思っている。
―目下の自社課題は。
お客さまに値上げを受けてもらっているところだが、日本国内の価格は欧米や東南アジアなどと比較するといまだ安い。特に製造業のお客さまが中心の〝ひも付き〟向けの価格是正がポイント。安定供給の担保や高品質な製品の開発・投資を継続するためにも、国際的に見て適正なマージンを確保することが最大の課題と捉えている。
需給の非常にタイトな状況が続き、お客さまには納期面などでご心配をお掛けしていて申し訳ない。供給、価格とも状況変化が早いため、しっかり連携を取って情報共有を図りたい。
非常に僭越(せんえつ)だが、このたびの価格改定の上げ幅は1企業や1業態では負担できるレベルになく、広く先々までコスト転嫁するしかないことにご理解をいただきたい。
新谷泰久(しんたに・やすひさ)1967年2月11日生まれ、広島県出身。90年京都大文学部史学科卒、新日本製鉄入社。自動車鋼板営業部自動車鋼板輸出グループマネジャーや名古屋支店自動車鋼材第一グループリーダー、ブリキ営業部ブリキ国内室長、広畑製鉄所工程業務部長などの職務を経て、20年4月から現職。
(北海道建設新聞2021年8月20日日付3面より)