深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り TASKAL 佐々木一之社長

2021年08月29日 10時00分

佐々木一之社長

健康なうちに関心持って

 TASKAL(タスカル、本社・札幌)は、病気などによって自宅生活が難しくなったシニア世代に高齢者住宅を無料で紹介し、元の家の処分など派生する困り事を一緒に解決するサービスを手掛ける。高齢化が進行する本道で、どのような理想を描くのか。佐々木一之社長(35)にビジネスの仕組みと狙いを聞いた。

 -どんな事業か。

 主に病院や介護施設の福祉従事者を通じて、高齢者住宅への入居が必要な人を紹介してもらう。本人はもちろん、家族からも話を聞いた上で適切な施設を探し、複数の候補を提案する。希望があれば見学や契約にも無料で同席する。入居時の引っ越し、元の家の不用品処分、不動産の売却などもお世話する。直近1年では、全道各地から300人以上の相談を受け付けた。

 -相談は無料だが、事業としてはどう収入を得るのか。

 当社は不動産売却の仲介料や家財整理の手数料などで事業を成り立たせ、本人からは可能な限りお金を頂かないようにしている。無料を怪しまれることもあるが、この仕事は福祉的な性格が強い。収益の臭いが濃くなると利用者からの評判にも影響し、かえって事業が続かなくなる。

 -不動産はスムーズに売れるのか。特に地方では空き家が売れず放置されている。

 売却は順調だ。不動産業者やハウスメーカーに対して、継続的に物件を紹介するのがポイントになる。高齢者本人や家族が売ろうとすれば不動産業者によっては一度きりの取引と見なし、不当に安い見積もりになりかねない。当社が前面に立てば、次の物件も出てくるため業者側も妥当な価格を付ける。売却額は顧客の今後の生活に大きく影響するため、少しでも高く売れるように必ず複数社から見積もりを取るようにしている。

 -高齢者住宅を選ぶノウハウとは。

 本人の状況をよく把握して、最適な施設を紹介することだ。例えば日常的な介護を必要としている人にサービス付き高齢者向け住宅を紹介してもミスマッチになる。高齢者住宅は道内に800以上あるが、当社の場合、少なくとも札幌圏では大半を実際に見学したことがあり、情報を持っているのが強みだ。役所などで相談すれば施設一覧はもらえるが、それぞれの様子が分かるわけではない。

 -紹介手数料を多く払ってくれる施設に誘導したくなるのでは。

 そのような業者がいるのは事実だが、われわれは違う。多くの業者は紹介して終わりなので手数料目当てになってしまうが、当社は別の部分から収入を得られるため、本人に合っているかどうかを判断基準にできる。

 実態を言えば高齢者住宅の紹介手数料に法規制はなく、比較的高額を出す施設もあれば手数料がない施設もある。不動産業界で売買仲介の手数料が定められているように、何らかのルールが必要ではないかと感じる。

 -なぜこの事業をやろうと考えたのか。

 以前マンション管理会社に勤めていて、高齢住民の孤独死に2度遭遇した。人は普通、重い病気になったり認知症が進んだりするまでは高齢者住宅に関心を持たないが、本来は健康なうちに考えておくべきだ。施設選びに関し、気軽に相談できる窓口が世の中に不足していると気付いて3年前に起業した。

 今は私を含めて5人。われわれだけで解決できる社会課題だとは思っていない。例えば不動産オーナーや管理会社が関心を持ってくれれば協業して、高齢者が安心できるコミュニティーをつくりたい。

(聞き手・宮崎 嵩大)

 佐々木一之(ささき・かずゆき)1986年札幌市出身、北海学園大法学部卒。不動産仲介・管理会社での勤務を経て2018年に会社を設立。

(北海道建設新聞2021年8月27日付2面より)


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