日本実業界の父と呼ばれる渋沢栄一の生涯を描くNHKの大河ドラマ『青天を衝け』は、次回からいよいよ「明治の栄一編」に入る。多くの人が知る渋沢翁の業績はここからのものだろう。新編では市場経済の担い手となる実業界を、ゼロからつくり上げていく姿が見られるはず。今から楽しみである
▼パリ編最後となる前回の放送では、新編につながる紙幣との出会いに触れていた。明治政府発行の太政官札である。1868年の動乱期に出されたこの札は偽造が容易でかえって経済を混乱させた。そこで政府はドイツに印刷を依頼し、72年にあらためて精巧な紙幣を発行。この時の責任者が大蔵省紙幣頭の渋沢翁だった。後に国立銀行の設立を進め、日本初の近代的な銀行券の発券にも力を尽くしたのはご存じの通り
▼よほど紙幣に縁のある人とみえる。2024年度上半期発行が予定される新デザインの1万円札に肖像が使われるのは当然かもしれない。1日に東京都内の国立印刷局で印刷が始まったそうだ。紙幣を刷新する一番の理由は昔と変わらず偽造防止である。新札には世界初の最先端ホログラム技術が導入され、斜めにすると肖像が動いて見えるという。視覚障害者や外国人も識別しやすいよう、紙を立体化したり、色や字体を工夫しているのも特徴だ
▼初代1万円札の聖徳太子に慣れ親しんだ世代には、昭和も遠くなりにけりの思いがあろう。二代目の福沢諭吉も在任40年である。高度経済成長からバブル、失われた30年を経て、渋沢翁の新1万円札は次にどんな世の中を見ることになるのか。