人間の知性を研究している米国の認知科学者2人の共著『知ってるつもり 無知の科学』(早川書房)によると、人間の思考能力は意外と頼りないものらしい。「私たちは往々にして自信過剰で、ほとんど知らないことについて自分の意見が正しいと確信している」のだとか
▼わが言動を冷静に振り返ってみると、思い当たることばかりで恥ずかしい限りである。まあしかし、これに関しては皆似たようなものだろう。紹介されていたラムズフェルド元米国防長官の言葉も示唆に富む。「分かっていると分かっていること」と「分かっていないと分かっていること」はいいが、「分かっていないと分かっていないこと」もあるため社会が混乱するというのである。少々ややこしい
▼新型コロナウイルスがまさにそう。「分かっていないと分かっていないこと」が多いのに、政府も専門家も全て分かっているかのように振る舞ってきた。ところが懸念されていた人流の増大にはほぼ関係なく、第5波は一気に収束した。最も肝心な感染の仕組みさえ、本当のところは分かっていなかったのである。悪者にされ、押さえつけられてきた業種の方々は割り切れぬ思いでないか。ただ、今までは漏水箇所が分からないため水を元から止めていたようなもの。その点は政府や専門家を責められまい
▼これからは違う。きょうで国内の緊急事態宣言とまん延防止等重点措置は全面解除となる。やみくもに経済を締め付けるやり方には国民の厳しい目が向けられよう。自信過剰でなく、公正な検証と実態に則した対策を望みたい。