道外事業者も進出、高まる期待
北海道は、未来の洋上風力発電基地だ。国は2040年までの洋上風力発電の導入目標として、本道には全国で最多となる955-1465万㎾を定めた。道内5区域が洋上風力発電の準備区域に位置付けられ、新たなビジネスチャンスを察知した道外事業者の進出も見られるなど期待が高まっている。

メンテナンスなど新たなビジネスチャンスが眠る
「風況の良さなど、ポテンシャルが高い」-。桧山沖で計画を立ち上げた電源開発(東京)の担当者は北海道をこう評する。石狩市沖でも7者が一般海域での事業に向けた手続きに着手しているほか、グリーンパワーインベストメント(同)を代表とする合同会社が港湾エリアでの発電所新設に向けた陸上工事を始めるなど、本道の洋上風力時代の到来を予感させる。
国内の洋上風力に火が付いたのは、19年の再エネ海域利用法がきっかけ。大きなエネルギーを効率よく得られる洋上風力を推進して脱炭素化を加速させるため、海域利用などのルールを定めた。新設が可能と認める海域を「促進区域」に指定し、公募による事業者選定で30年間の海域占用を許可する。日本風力発電協会(東京)の調査によると、同法を機に21年1月末時点で全国41件1825万㎾分の計画が立ち上がった。
道内では石狩市沖、島牧沖、松前沖、岩宇および南後志地区沖、桧山沖の5区域が促進区域の前段階となる準備区域に整理された。これを受け、各事業者の計画や、漁業関係者との調整をはじめとした自治体の下準備が活発化している。
なぜ本道に洋上風力への期待がかかるのか。同協会の斉藤長理事が指摘するのは「年間設備利用率」だ。実際の発電電力量が、100%運転を続けた場合に得られる発電電力量の何パーセントに当たるかを示す指標。既存陸上風力発電所の比較では、全国平均の20-25%に対し北海道は平均25-30%と上回る。本道は他エリアより1・2倍以上多く発電できるほど風況が良いということだ。斉藤理事はこの差を「経済性の面で大きな違いが生まれる」と指摘する。
洋上風力に関する道内での事業ニーズを見越し、大企業が始動している。ことし4月に北海道支店を開設したのは、商船三井(東京)だ。同社の鍬田博文常務は「海に関する多様なグループ会社を持っていて、これらを洋上風力関連事業に生かせると考えている」と強調。既に秋田県で進む国内初の商用大型洋上風力発電事業には、同社が間接出資するSeajacks(シージャックス・英国)の設備設置船が基礎据え付けなどの作業に当たっている。
130年以上培ってきた「海運」が同社の柱。鍬田常務によると、発電機のパーツは海外からの運搬が多くなるという。そんな中、同社は海上輸送の商船三井ドライバルク(東京)や、重量物輸送の実績を持つ宇徳(神奈川)などグループ会社との連携で、風車ブレード、風車基礎部材といった主要な大型パーツを海から陸まで一貫輸送できる。
運転開始後に重要となるメンテナンスにも総力を結集する。将来的な人手不足が予想される中、同社は船員配乗会社Magsaysay(マグサイサイ・フィリピン)と作業員育成に取り組む。フィリピン国内でのトレーニング施設新築も計画していて「フィリピン人材を風車メンテナンスなどに投入できる体制を整える」(鍬田常務)と意気込む。そのほかにもアジア初となるメンテナンス作業船を建造中で、台湾のパートナーと共同での保有運航が決まっている。
このように、恵まれた自然環境から洋上風力発電の期待を一身に受ける北海道だが、系統接続など課題は多い。実現に向けては、現状を見据えた官民の連携が何よりも不可欠になりそうだ。
(北海道建設新聞2021年9月30日付1面より)
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