加速する企業進出・立地
KIECEへの企業立地が活況を呈している。土地が足りない札幌市では新規の企業進出や既存施設改築が難しく、その受け皿となっている。企業立地が進めば税収増や地域への経済波及効果が見込めるため、各自治体は誘致に力を注ぐ。中には、再生可能エネルギーと絡めた〝進化〟を遂げようとする工業団地も出てきた。
「札幌には適地がなかった」―。KIECE各地にこのような事業者の声が届く。製造業や運送業では拠点集約など生産・物流の合理化がトレンドで、施設の延べ床面積は増大傾向。それに伴い、企業が求める土地面積が大規模化している。札幌市内はこれまでの都市化で企業・事業所が密集した結果、大きな土地を確保しにくく、企業の要望に応えられないのが現状だ。
札幌市の担当者もこの実態を認める。ただ、市は「札幌圏」への企業進出による市内への波及効果を見込み、KIECEに加え小樽市、南幌町、岩見沢市、当別町での工場、データセンターなどの施設新設に対し、最大5億円を補助する制度を2014年度に立ち上げている。この補助金を活用した計9件の新設のうち、2件がKIECEへの進出。現在も近郊市での施設新設の打診が届いているという。
一方で、既存企業の市外流出には危機感を抱く。法人住民税、固定資産税、都市計画税などの税収減や雇用面など負の広がりが考えられるため、都市計画法上の規制緩和など、流出対策に追われている。
菓子大手の明治(本社・東京)は札幌を後にした企業の一つ。老朽化した札幌工場、旭川工場を23年に恵庭市に移転集約する。以前より大きな工場を建てられる土地を札幌で探していたが、見つからずに移転を決めた。同社担当者は「恵庭は全道各地を結ぶ道路インフラが整っていて、大消費地札幌へのアクセス性にも優れている」と説明する。

札幌を後にした明治の工場新築が進む
恵庭市経済部の藤井昌人商工労働課長は「近年は、食品関連の誘致が好調だ」と話す。経済産業省による工業統計調査では、同市内の製造業従業員数は11年の4188人から19年には4810人まで増加。製造出荷額も右肩上がりに伸び、11年の1360億円が19年には1607億円に達した。
工場などの発展に比例し、法人税収も好調だ。20年の固定資産税は直近10年間で最多の33億2000万円。都市計画税も同期間で2番目に多い5億9600万円となっている。
業種別に集積する「工業団地」像から進化を遂げようとするのは石狩市。石狩湾新港内100ha分のエリアを対象とし、全ての企業が使う電力を再生可能エネルギーで賄う全国初の取り組みを検討している。
市経済部企業連携推進課の担当者は「企業の環境意識の高まりに加えて、今後、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連でなければ資金調達が難しくなることも考えられる。『再エネ』を求める道外企業の進出が見込める」と話す。各企業の進出後は「異なる産業同士の交流や相乗効果で、石狩から先進的な取り組みが生まれることも」と期待する。
両市以外にも、5年間で約30件の企業立地があった千歳市や、北海道日本ハムファイターズの新球場建設で全国的に知名度が上がった北広島市も好調。工業団地がおおむね完売し、ほぼ新規分譲がない江別市にも月に数件のペースで問い合わせが入るといい、市は工業団地内の未利用地流通を促している。KIECEでの企業立地はまだまだ続きそうだ。
(北海道建設新聞2021年10月5日付1面より)