現地企業と信頼関係構築
少子高齢化による人口減少で国内産業の競争激化が進む中、帯広に拠点を置く郷土料理・天ぷらの「はげ天」と豚丼の「ぶたはげ」は、道内にとどまらず香港にも積極展開している。海外に出た狙いを帯広はげ天の矢野整代表取締役(58)に聞いた。
―海外進出のきっかけを。
私自身は海外進出に興味はなかったが、帯広の店舗には多くのインバウンド客が訪れていた。ほとんどが豚丼目当てだったため、海外からの評価が高いという実感はあった。
2013年ごろに、香港大手の飲食チェーンである美心集団(マキシム・グループ)の担当者や同グループと一緒に仕事をしている東京在住のコーディネーターが来店した。傘下で運営している『丼丼屋』という店の中で帯広の本場の豚丼を提供したいというオファーを受けた。
―海外進出は失敗例も少なくない。抵抗はなかったか。
最初はだまされるのではないかと思ったが、13年春に香港を訪れた。日本担当チームの真摯(しんし)な姿勢に感動して、引き受けることを決めた。いきなり店を出すのではなく、3カ月間の期間限定というのも良かった。一度決めてからの展開は早く、マキシムのスタッフが帯広にシェフを派遣して味の修行をし、13年7月には丼丼屋でメニューの提供が始まった。人気だったことから翌年、レギュラーメニューで販売したいという話になり、再び売り始めた。
海外で料理を提供するに当たり、「ブランドを守ってほしい」「ぶたはげの豚丼を出してほしい」と守るべきことはしっかりとマキシム側に伝えた。味も現地の嗜好(しこう)に合わせず北海道の味を提供している。
―香港で中華料理店のみならず、スターバックスの運営など多角的に飲食店を展開するマキシムをパートナーに選んだ決め手は。
マキシムのトップ、日本食担当チームの情熱、味の責任者のプロとしての姿勢など、信頼できると感じた。人と人とのつながりや信頼が大きかった。それがなかったら今はない。実は15年にシンガポールでぶたはげ初の海外実店舗を現地企業と合弁で構えた。しかしオープン前から意思の疎通がうまくいかず、最終的に18年2月ごろに閉店するなど苦い経験もした。
シンガポールの件があったからこそ、マキシムとより真剣にビジネスパートナーとして向き合えるようになった。両社の関係が発展し、16年9月に「はげ天」、21年7月には「ぶたはげ」を香港のショッピングモール内にオープンさせることができた。
―海外進出は自社にどのような効果をもたらしたか。
帯広から道内のどこかや東京、海外に出るのも同じ。お金を稼ぐ以上にいろんな意味で人とのつながりができ、視野が広がった。十勝の素材の良さの再認識もでき、海外に進出して良かった。
新型コロナウイルスの影響は帯広の繁華街にも広がったが、私たちの店は食事処として認知されていることから、何とか生き延びている。その厳しさの助けになったのが海外だ。
出店だけではなく、外国に豚丼のたれを卸したりするなど、種をまいたことで別な収益源が確立され、コロナ禍での助けになっている。
(聞き手・ジャーナリスト武田 信晃)
矢野整(やの・ひとし)1962年12月1日生まれ、帯広市出身。明治大卒。88年に帯広はげ天に入り、2004年から現職。