充実した子育て・教育環境
KIECEは単に札幌との近さだけで注目されているのではない。ユニークなのが、子育て・教育環境の充実を通した人づくりの取り組みだ。専門の職員が子育て家庭をサポートしたり、公立大学のカリキュラムに地元を知る学問を組み込んだりと、地域の将来を担う人材育成に注力している。
平日の午後、楽しげな親子の声が聞こえるのは、イオンタウン江別2階にある子育てひろば「ぽこあぽこ」。江別市の子育て支援施策の一環で、遊び場を提供するとともに、子育て支援コーディネーターが常駐して育児相談を無料で受け付けている。所管する市健康福祉部子育て支援室子ども育成課の伊藤ひとみ参事は「遊ぶだけじゃなく、相談があるからここに来たという人もいる」と話す。

子育てに寄り添う体制を整える江別市
保護者らに対応するのは市が雇用した3人の女性だ。全員が保育士資格を持ち、健康や成長、食事といったアドバイスから、市内の遊び場や幼稚園・保育園に関する情報を提供。イオン内施設のほか市役所など複数の拠点で活動する。2015年7月の開始以降、相談は年々増え20年度は1058件あった。21年度は9月末で407件に上る。
相談の増え方が認知度の高まりを表す半面、伊藤参事は市内で増える転入者について「子育てに関する情報弱者になりやすい」と指摘。長引くコロナ禍で人と人の接触が減り、気軽に利用できる相談の場の重要性はこれまで以上に高まっているため、支援制度の周知を図る考えだ。
居住地を選ぶ際、地域の学力レベルを重視する保護者も少なくない。小学6年生と中学3年生が対象の全国学力・学習状況調査。19年度の結果を見ると、全道平均正答率は全国平均を下回ったが、北広島市は小中合わせた5教科中3教科で全国平均を超え、高い学力水準を示した。
18年度に市内の全小中学校で一斉に小中一貫教育を取り入れ、中学校区ごとに小中が連携。中学進学時の環境変化になじめず学習が遅れる「中1ギャップ」を解消するだけでなく、9年一貫の指導計画を独自に作ることで確実な学力定着を図る。
学業以外でも、小学4年生から中学3年生まで継続して将来の目標などを記録するキャリア教育を実施。小中学校の垣根を越え、合同授業や児童会と生徒会の交流、教師の合同研修などに取り組む。
授業の先生は市長―。千歳市にある千歳科学技術大は、19年4月の公立化に伴い「千歳学」を1年生の必修科目として導入した。20年度からは、学んだ知識を生かして市の課題を解決する地域課題プロジェクトが進行。市外からの入学生が多いため、千歳への愛着を醸成している。
千歳学の授業で、山口幸太郎市長は空港や自衛隊があるという地域特性など、市の全体像を説明。他の回では市職員が地域の歴史をテーマに取り扱う予定だ。
科学技術大学生支援課の高杉雅史課長は「公立化による特長の一つ。千歳に興味・関心を持ってもらえれば良い」と話す。
先を見据えた教育施策を通して、本道の次代を担う人材がKIECEから輩出されようとしている。
◇ ◇ ◇
発展が続く5市。交通アクセスが良好な工業団地や住宅地、子育てしやすい教育環境などそれぞれの持ち味がある。札幌への一極集中を打開する地域再生のモデルとして確立するのか。その可能性を秘めているのがKIECEだ。
(北海道建設新聞2021年10月11日付1面より)