本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(13) 段鼻と踏み板の好ましい配色

2021年10月15日 09時00分

 国土技術政策総合研究所(国総研)の報告書に、2004年度の転倒・転落による死者数が、交通事故の死者数に匹敵すると書かれていて、非常に驚きました。救急車で運ばれることはなくても、階段や段差で「ひやっ」「はっ」とした経験は誰にもあると思います。かくいう私も自宅の階段で足を踏み外し、そのまま一階の床まで滑り落ちたことがありました。若い頃でしたから軽い打撲で済みましたが、今もし…、いえいえ想像したくありません。日常の中で階段事故は意外に多いのです。

 階段の一段の高さを蹴上、足が載る平らな部分を踏み板(段板)、その先端を段鼻と呼びます。階段事故では、まず、この蹴上と踏み板で作られる「傾斜」に注目がいきます。

 ところが、この報告書では、階段事故の状況は「暗かった」「階段の色が分かりにくかった」「滑り止めがなかった、剥がれていた」のように、踏み板の「見え」に関わるものが半数ほどあり、これに「滑る」が加わります。建築基準法にのっとった傾斜でも事故は防ぎきれないのです。

 以前、照明の色温度と踏み板の色について検証していた時、段鼻の位置に細く切った紙を置くと、階段の一段一段が明確になり、カメラを構えた私の手は止まってしまいました。安心感が全く違うのです。見慣れた階段の段鼻の位置に、線が1本あるだけなのですが…。

 階段事故は上るときより降りるときに多く発生します。降りるときに目に入るのは段鼻と踏み板です。段鼻より手前に足を置くと安全で、段鼻より向こう側に足を置くと転落してしまいます。段鼻は安全の境界線と言えますが、段鼻に注視してしまうのは危険です。降りるときは、段鼻を目安にしつつ、足を置く踏み板にしっかり目が行く必要があります。「分かりやすい踏み板の色」と「暗かった」と言われない十分な明るさの確保が、安心な階段への第一歩です。

 段鼻の色は、踏み板の色との輝度比2・0程度がよいとされています。輝度比は2色のコントラストを比較する指数で、輝度比2・0はマンセル値の明度差3―4に相当します。コントラストの強い方が見分けやすいように思われますが、段鼻ばかりに気を取られ、足を置くべき位置を間違えては意味がありません。

 輝度比2・0程度であれば色相に制限はなく、空間デザインのコンセプトを生かした配色が可能です。同系色でも明度差3―4であれば、どの色覚タイプの人にもロービジョンの人にも、段鼻が分かります。

 高彩度の黄色は、高齢者には白やベージュなどと近い色に感じることがあります。P型(色弱の色覚タイプ)の人には、さえた赤は必ずしも見分けやすい色ではありません。鮮やかさに依存しないことも大切です。

 段鼻は、踏み板の端から端まで、しっかり通すことで効果が上がります。踏み板の柄(模様)は、段鼻の位置の分かりやすさや、踏み外しを誘導しない配色デザインにすることが求められます。

 色彩の力で階段事故を防ぐのは、難しいことではありません。段鼻と踏み板の好ましい配色が、私たちの安全を守ります。

(北海道建設新聞2021年10月14日付3面より)


本間純子 いつもの暮らし便 一覧へ戻る

ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 東宏
  • 川崎建設
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

丸井今井函館店、再開発へ...
2021年11月10日 (23,986)
「アイアンショック」の足音 鋼材高値、リーマン前に...
2021年07月15日 (11,036)
三笠の道道岩見沢桂沢線で道路陥没...
2021年11月12日 (3,638)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想...
2021年01月13日 (3,427)
飲食・物販施設が着工 旭川の買物公園...
2021年11月23日 (3,295)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 行政書士 new
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第14回「相手に思い伝える国語」IT技術や知識が求められる時代にも、変わらずに必要な能力もあるものです。

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第219回は「トイレの回数」。極端に多い場合は、病気の可能性もあります。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第14回「テレワークに向かない仕事」。現物サンプルのチェックや資料の印刷など、アナログな部分も多いです。

連載 進む木造化

道内にも波及しつつある、中高層ビルの木造化の動きを紹介する。