「施設造り」と共に「人づくり」を
共働き世帯の増加などにより、待機児童が社会的な課題となる中、札幌市は2018年から4年連続で待機児童ゼロ(4月1日時点)を達成した。老朽化した幼稚園などの改築に合わせた幼保連携型認定こども園への移行が旺盛で、保護者のニーズを満たす。一方、保育士や幼稚園教諭の人材不足などの課題が見え隠れする。

札幌市内では幼保連携型認定こども園整備が旺盛だ
市内ではここ数年、幼稚園からの移行を中心に私立の幼保連携型認定こども園が増加。設置手続きや運営などの負担軽減が図られ始めた15年4月の17園から、21年4月には74園に上った。
国も整備費の4分の3を補助する制度を設け、認定こども園整備に取り組む。札幌の都市化に合わせて建てられた幼稚園が続々と建て替え時期を迎えているが、15―20年度に改築の補助を受けた35園のうち、6割に当たる21園が改築に合わせて幼保連携型認定こども園への移行を選択した。
そうした中、「単に認定こども園を増やせばいいという話ではない」と指摘するのは北海道私立幼稚園協会副会長で、学校法人高陽学園が運営する各園の園長などを務める前田元照氏。一番の課題は保育士や幼稚園教諭の人手不足だ。北海道労働局がまとめた8月の札幌圏での保育士・福祉相談員など(フルタイム)の有効求人倍率は2・63倍に上る。
前田氏によると、人手不足により実際の受け入れ可能人数が施設定員に満たないケースがあり、国の号令に基づいて施設整備が進んでも法人側が対応しきれていない現実があるという。
幼稚園の「教育」と、保育所が持つ「保育」機能を一体化したのが幼保連携型認定こども園。0―5歳の子どもたちを長時間預かることができ、かつ各法人のカリキュラムに沿った教育を提供する。
保護者側のニーズは認定こども園に集中している。市がまとめた9月1日時点のデータでは、認定こども園の入所率は10区中7区で100%を超過し、54.4%の施設が定員を超える人数を受け入れている。一方、保育所の定員超えは39.6%にとどまり、55.6%の施設が定員割れを起こしている。
前田氏は「保育ではなく、0歳から子どもに『教育』を受けさせたいという保護者が増えている」と説明。幼保連携型認定こども園なら幼稚園と保育園に別々で通うきょうだいが同じ施設で受け入れられたり、親の就労状況変化による保育園・幼稚園間の転園の必要がなく、子どもに安定した環境を提供できるのも人気の理由だという。
人材養成校の対応も進む。市内で保育士・幼稚園教諭育成の専門学校を運営する学校法人三幸学園(東京)は、近年の保育士・幼稚園教諭のニーズを受け、新たな校舎を建設する考えだ。
同法人は、保育士などを養成する学科の22年度入学定員を40人増員して160人とし、その定員の充足も見込めている。担当者は「出願者数は増加傾向。さらなる定員増や教育内容をより充実させるため、校舎新築を検討している」と明かす。
ただ、定員を充足する養成校は限られていて、依然として人材面で課題が残る。保育・幼児教育は「人」によって成り立つ。施設造りと人づくり、双方の足並みをそろえる必要がある。
(北海道建設新聞2021年10月28日付14面より)