耐火や耐震、研究進む 林産業への経済効果期待
中高層建築物の木造化に向けてゼネコンなどの技術開発や、国の制度整備が進む。民間事業者の間では耐火性、強度、コストといった課題解決のための研究開発が続き、10月1日からは、民間に対する支援を打ち出した建築物木造化に関する改正法が施行される。制度・技術の両面から木造化に追い風が吹くほか、道内木材産業への波及効果にも期待が高まる。
「前例のない『高層・純木造・耐火』に挑戦する」-大林組(東京)木造・木質化建築プロジェクトチームの藤生直人部長はそう意気込む。横浜市内で新築中の研修施設(地下1地上11階、延べ3620m²)では、同社の最新技術が導入されている。
筆頭は耐火技術だ。構造部分に「オメガウッド(耐火)」を適用。LVL(単板積層材)による大断面材に石こうボードで被覆、さらにその外側の燃え代層を木材で仕上げた3層構造とした。特に1階柱は、3時間の燃焼にも耐えられる仕様を誇る。
そして耐震性。RC造と同じスパンで高層化するためには、梁(はり)と柱の接合部を高耐力化しなければならない。そこで金物を使わずに柱と梁が一体化したLVL剛接十字仕口ユニットを開発。ユニットと免震構造が合わさり、高い耐震性を実現する。床はCLT(直交集成材)の耐火性能を高めるメンブレン工法で施工した。
2020年3月に着工し、木造躯体はことし6月に上棟。現在は22年3月の竣工を目指して内外装の仕上げが最盛期を迎える。木材使用量は1945㎥。20年度に国が整備した公共建築物の木材使用量の4割弱に相当する。
近年は業界全般に、デベロッパーからの木造・木質化に対するニーズも多く、各社は研究開発を重ねている。
同社が1990年代以降に木造を取り入れた施設は、木質化やハイブリッド木造を合わせて19件。検討・計画段階の物件を含めると31件に及ぶ。木造を望む声に応える方針だが、純木造だけにこだわるのではなく、培われた技術をハイブリッド木造建築などに生かしながら、ニーズに沿う建物を建てる考えだ。
技術の進歩が法も動かし始めた。10月1日、「公共建築物木材利用促進法」改正法が施行される。施行後約10年で、耐火・耐震性など木材利用に関する技術革新が図られたことを受け、掲げていた木材利用推進の対象を従来の公共建築物から、民間建築物まで拡大する。法律名に「脱炭素社会の実現」を盛り込むなど、木造化による脱炭素を大きく打ち出している。
国、地方公共団体などと協定を結ぶ民間事業者の木材利用などに対し、技術的な情報提供をするほか、国が財政上の配慮をする仕組みを新設。デベロッパーなど建築主が対象に想定されていて、林野庁担当者は「国と協定を結ぶことで対外的にアピールできる。ESG投資などの資金獲得にもつながるのでは」と考えている。
木材利用を促進するためには、安定的な需要と供給体制確保が不可欠だ。林業・木材産業事業者らが協定に参画するケースも考えられ、建築主とそれらの事業者がつながれば、需要把握や安定的な供給先確保による道産材生産力向上・雇用確保など、道内山間地域への波及効果も見込める。
CLT生産を手掛ける協同組合オホーツクウッドピア(北見)は、19年にCLT増産に向けた設備投資をし、道内の中高層木造建築に関わってきた。中根幹成理事長は「国の方針もあり、非住宅にCLTを活用したいという打診が届き始めている。今後さらに木材利用が活性化するのでは」と期待する。近い将来、街並みから道内産業まで「木」を取り巻く環境が一変するかもしれない。
(北海道建設新聞2021年9月28日付1面付1面より)